1 柄谷行人が『畏怖する人間』(1972)で古井由吉の「杳子」を読み解いていく様に圧倒された記憶は今も鮮明である。だから最初は「内向の世代」によりそう文芸評論家として柄谷は出現した。 「此山村には、富の均分というが如き社会主義の理想が実行せられたのであります。『ユートピア』の実現で、一の奇跡であります。併し実際住民は必ずしも高き理想に促されて之を実施したのではありませぬ。全く彼等の土地に対する思想が、平地に於ける人々の思想と異なって居るため、何等の面倒もなく、斯かる分割方法が行わるるのであります。」(「九州南部地方の民風」) さらには幸徳秋水らが「共産党宣言」を翻訳したのが1904年、『遠野物語』が刊行されたのが大逆事件のあった1910年であることにふれ、「願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」という激越な序が、「一つの妖怪がヨーロッパをさまよっている」という「共産党宣言」の書き出しを想起させるとまで書いている。 「もし連合した共同組合組織諸団体が共同のプランにもとづいて全国的生産を調整し、かくてそれを諸団体のコントロールの下におき、資本制生産の宿命である不断の無政府と周期的変動を終えさせるとすれば、諸君、それは共産主義、“可能なる”共産主義以外のなんであろう」(「フランスの内乱」) 母系でも父系でもない双系制の社会が日本にあったとか、先の「社倉」の理論化と実行は南宋の朱子によるものであったとか、新書版でありながらともかく知的な刺激に富んだ書物である。 柄谷行人『遊動論』文春新書(2014) ▲
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| 2014-01-28 15:09
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![]() 「芸術新潮」1月号がつげ義春を特集している。なぜこの時期になのかは不明だが、原画あり、作者本人へのロングインタビューありで、なかなか力の入った企画であると思った。 ▲
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| 2014-01-26 18:03
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コカリナ演奏会「コカリナとうたでつむぐ」へ行って来た。
![]() 3.11以後、「東日本大震災被災地支援コカリナコンサート&音楽プロジェクト」を立ち上げ、全国100カ所を目標に支援コンサートを開いている。本日の演奏会もその一環で第98回目になるそうだ。主催はさいたま教育文化研究所。昔の縁で声をかけてもらい、出かけていくことになった。 演奏会の性格上、きっかけは東日本支援の意義に賛同してのことだったが、演奏がはじまるや、すっかりコカリナの奏でる音色に魅了されてしまった。 陸前高田・奇跡の一本松の枝から作られたというコカリナも紹介された。大小によって音域を作り出すのであるが、木製だからか、やさしく柔らかい音色である。確かに木々をわたってくる風の音と言われればそんな気がしてくる。 黒太郎は芸名で本名は正文、ボーカルの矢口周美は結婚前の姓を芸名として用いていて本名は黒坂、ややこしいがつまりご夫婦である。そのボーカルの澄んだ歌声も素晴らしかった。 ![]() ▲
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| 2014-01-25 19:42
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![]() ![]() ![]() ![]() 会場のギャラリー古藤とはどこだろうとネットで検索してみると、なんと武蔵大学の真ん前であった。 ![]() 東京会場:ギャラリー古藤 ~1/27(月)まで ▲
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| 2014-01-21 20:32
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諸君! また一人『櫂』の詩人が世を去った。私が吉野弘を読むようになったのは就職してしばらく経ったころのことだったと思う。吉野弘の第一詩集『消息』はサラリーマンが日々の労働の中でしだいに人間疎外に陥っていく悲哀を描いている。吉野弘には過労で倒れるまで労働組合運動に専念した時期があるのだという。徴兵5日前に終戦を迎えた詩人らしく、戦後という時代の中で人間性をとりもどすための抗いがあったのだろう。そんな詩作品に共感し引きよせられていったのだと思う。
なめらかに圭角のとれた
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| 2014-01-21 10:57
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1月に入って卒業生の芝居を続けて二本観ることになった。一本はみかわやこと葉山美侑出演の「WILDHALF奇跡の確率」、一本はモコこと甲斐千尋出演の「海のバッキャローまごころ食堂編」である。
二人とも同じ事務所に所属しており、様々なプロデュースに応じて出演の機会を得ているらしい。活劇中心であったり、オペレッタ風であったりと、エンターテイメント系の舞台が多くを占めているようだ。 興行的にはエンタメ系の方が成り立ちやすいという事情もわかるし、殺陣やアクロバットが達者であるとそれなりに楽しめるのは確かである。しかし、アイドル路線をひた走られるとオジサンとしては付いて行けないものがあるのも正直なところだ。 昨日の公演は「海のバッキャローまごころ食堂編」の方だったのだが、今日の芝居はどんなかなと思いつつ客席に座ってセットを見ると、「おお」と思わせる作り込みで、まずは期待感を持たせてくれる。グリーンフェスタ参加作品というだけに、台本、演出、演技を総合して芝居づくりに力が入っているのを感じられたし、期待は裏切られなかったといってよいだろう。 登場人物がいい人ばかりで、結局おとぎ話でしょとか、書きすぎ(説明し過ぎ)だなあとか、注文をつければいろいろあるのだろうが、それだけに語りたいものへの思いの熱さは伝わって来たし、きちんと時代と向き合っていて台本にも好感が持てた。役者たちも真摯に台本に取り組んでいた。モコもバイトの女子大生(だったか?)の若々しさをキレのある演技で表現して、役づくりへのとりくみが伝わって来た。 前後してしまうが、みかわやは「はっぴぃはっぴぃドリーミング」の企画に続けて出演していて、それはそれでたゆまぬ努力があってのことだと思う。ただ、継続して舞台に立ち続けていてこそチャンスも生まれてくるというのも理解できるのだが、まだまだ彼女本来の力は出し切れていないような気がする。 ぜひ、いい台本といいキャスティングに恵まれてほしい。まあ、それも彼女たちが精進を怠らず、その実力が認められてこその話なのだろうが。 ![]() シアターグリーンBOXinBOX(池袋)~19日(日)まで ▲
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| 2014-01-17 14:52
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![]() 学校図書館と公共図書館を結ぶ集いということで、公共図書館の休館日である月曜日を選んで毎年成人の日に開催されている。 午前中は「憲法と教育」と題して、金平茂紀氏(TBSテレビ「報道特集」キャスター)による記念講演があった。筑紫哲也をして「異能」といわしめただけあって、たいへん面白いお話を聞くことができた。 戦後→災後(3.11)→戦前に向かっているという情勢認識が語られ、現政権が3.11という戦後史にとっても大きな節目となる出来事を「なかったこと」のように扱い、3.11以前へ、さらには戦前に時間を戻そうとしていると指摘する。 国民主権から国家主権へのその大きな流れの中で、教育も「権利としての教育」から「国家のための教育」へと変質が迫られ、選別化・階層化・競争原理といった新自由主義の持ち込みや、学校の民間市場化がすすめられようとしているとする。 それらの認識の多くは参加者とも共有するものであったが、世界中を取材して歩いて来た方らしく、インドやネパールの子どもたちの様子や、さらには台湾で反日キャンペーンが張られたその同じ会場でドラえもん祭が同時開催され、そちらの方に集まった人の数の方が多いことなどが写真とともに紹介されると、物事を単眼的に見てはならないことをユーモア混じりに教えられた。 金平氏が提起するところの、「ではこれからどうするか」で、①外とつながること、②横とつながること、③いつもこころにユーモア、④学びあう喜び、⑤学びは生きていく価値そのもの、の5つの指標も参加者に勇気を与えるものであった。
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by yassall
| 2014-01-14 13:42
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紅葉も澄色に溶く瀑の景
白月に魂(たま)冷ゆるまで瀑轟 年賀状を差し上げた方には写真付きでお送りしましたが、11月に袋田の滝を訪れたときに想を得たものです。 白月とは皓皓と明るい月をいうのですが、実際に袋田の滝にいたのは午後の日のあるうちです。つまりは虚の世界ということになりますが、観光客もいない夜、月光に照らされながら水を落とし続ける瀑の景を想像してみるのも一興かな、と。 まあ、相も変わらず苦しまぎれですが、今年はこんなもので……。 あ、本年もよろしくお願いします。 拝 ▲
by yassall
| 2014-01-01 17:32
| 雑感
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新しい「エネルギー基本計画」に対するパブリックコメントの募集は本日が締切です。政府は1月末にも同計画を策定し、原発の再稼働さらには推進をしようとしています。
東京オリンピック大会組織委員会の会長に就任する森元首相は18日のテレピ東京の番組で、小泉元首相が訴えている「原発即時ゼロ」について、「6年先の五輪のためにはもっと電力が必要だ。今から(原発)ゼ口なら、五輪を返上しかなくなる。」と発言… おそらくは都知事選を意識してだろうが、オリンピックを人質にここまで露骨に政治利用して恥じないような人物が大会組織委員長であるなら、ほんとうに返上した方がよいのではないだろうか? NHK会長の慰安婦発言、官房長官は問題視せず(同) ▲
by yassall
| 2014-01-01 00:19
| つい一言
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