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2019年 10月 01日 ( 1 )

韓国のこと (8) 「徴用工」問題⑤ 「損害賠償請求権」の正否(中)

(承前)
 以下に「多数意見に対する補充意見」の内容を検証してみる。
(1)補充意見の立場:
①本件の主な争点は、請求権協定の前文と第2条に現れる「請求権」の意味をどのように解釈するかである。具体的には上記「請求権」に「日本政府の韓半島に対する不法な植民支配・侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する精神的損害賠償請求権」、すなわち「強制動員慰謝料請求権」が含まれるか否かが問題になる。
②請求権協定では、「請求権」が何を意味するかを特に定めていない。この用語に不法行為に基づく損害賠償請求権、特に本件で問題となる強制動員慰謝料請求権まで一般的に含まれると断定することはできない。
(2)請求権協定の目的:
①請求権協定第2条でサンフランシスコ条約第4条(a)に明示的に言及していることから、サンフランシスコ条約第4条が請求権協定の基礎になったことには特に疑問がない。
②請求権協定は基本的にサンフランシスコ条約第4条(a)にいう「日本の統治から離脱した地域(大韓民国もこれに該当)の施政当局・国民と日本・日本国民の間の財産上の債権・債務関係」を解決するためのものである。
③このような「債権・債務関係」は日本の植民支配の不法性を前提とするものではなく、そのような不法行為に関する損害賠償請求権が含まれたものでもない。
④サンフランシスコ条約第4条(a)では「財産上の債権債務関係」について定めているので、精神的損害賠償請求権が含まれる余地はないと見るべきである。
⑤請求権協定の直前に大韓民国政府が発行した「韓日会談白書」も「賠償請求は請求権問題に含まれない」とした。詳しくは、大韓民国はサンフランシスコ条約の調印国ではないため第14条の規定による戦勝国が享有する「損害と苦痛」に対する賠償請求権は認められなかった。このような韓・日間の請求権問題には賠償請求を含めることができないと説明している。
⑥またサンフランシスコ条約第14条が日本によって発生した「損害と苦痛」に対する「賠償請求権」とその「放棄」を明確に定めているのとは異なり、請求権協定は「財産上の債権.債務関係」のみに言及しているだけであり、請求権協定の対象に不法行為による「損害と苦痛」に対する「賠償請求権」が含まれるとか、その賠償請求権の「放棄」を明確に定めてはいない。
(3) 対日要求8項目による補償金:
①対日要求8項目に明示的に列挙されたものはすべて財産に関するものである。第5項も、徴用による労働の対価として支払われる賃金などの財産上の請求権に限定されたものであり、不法な強制徴用による慰謝料請求権まで含まれると解することはできない。
②また第5項は「補償金」という用語を使用しているが、これは徴用が適法であるという前提で使用した用語であり、不法性を前提とした慰謝料が含まれないことが明らかである。当時の大韓民国と日本の法制では「補償」は適法な行為に起因する損失を填補するものであり、「賠償」は不法行為による損害を填補するものとして明確に区別して使用していた。
(4)日本の植民地支配の不法性に対する認識:
①請求権協定締結当時の両国の意思がどのようなものであったのかを検討する必要がある。仮に請求権協定当時、両国とも強制動員慰謝料請求権のような日本の植民支配の不法性を前提とする請求権も含めることに意思が一致していたと見ることができるなら、請求権協定に言う「請求権」に強制動員慰謝料請求権も含まれると解することができる。
②しかし、日本政府が請求権協定当時はもちろん現在に至るまで、強制動員の過程で反人道的な不法行為が犯されたことはもとより、植民支配の不法性さえも認めていないことは周知の事実である。
③当時強制動員慰謝料請求権の存在自体も認めていなかった日本政府が請求権協定にこれを含めるという内心の意思を持っていたと解することはできない。
(5)大韓民国による慰労金や支援金:
①請求権協定以後、大韓民国は請求権資金法、請求権申告法、請求補償法を通じて1977年6月30日までに被徴用死亡者8552人に1人当り30万ウォンずつ合計25億6,560万ウォンを支給した。
②これは上記8項目のうち、第5項の「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」が請求権協定の対象に含まれるによる後続措置に過ぎないと見ることができるから、強制動員慰謝料請求権に対する弁済とは言いがたい。
③また、その後大韓民国は2007年の犠牲者支援法などによりいわゆる「強制動員犠牲者」に慰労金や支援金を支給したが、当該法律では名目は「人道的次元」のものであることを明示した。
④このような大韓民国の措置は、請求権協定に強制動員慰謝料請求権は含まれておらず、大韓民国が請求権協定資金により強制動員慰謝料請求権者に対して法的支払い義務を負うものではないことを前提としているものと言わざるを得ない。
  ※
 若干の補足をする。
①「請求権協定の合意議事録(Ⅰ)」には請求権協定第2条に関して次のとおり定めたとある。

a)『財産、権利及び利益』とは法律上の根拠に基づいて財産的価値が認められる全ての種類の実体的権利をいうことで了解された。

 ここでいう「法律上の根拠に基づいて財産的価値が認められる全ての種類の実体的権利」という表記で思い出されるのは、1991年の柳井答弁で「慰謝料は実体的な財産権に該当しない」とされたことである。「対日要求項目」5項の「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権」と「強制動員慰謝料請求権」とは区別されるべきではないか?
②1961年5月10日、第5次日韓会談予備会談の過程で、韓国側が「他国民を強制的に動員することによって負わせた被徴用者の精神的、肉体的苦痛に対する補償」に言及したことは事実であるが、第5次会談は朴正煕の軍事クーデターで中断し、合意を得ていないことは前記した。
③1961年12月15日、第6次韓日会談予備会談の過程で、韓国側は「8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求したが、そのうちの3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定している。(生存者1人当り200ドル、死亡者1人当たり1650ドル、負傷者1人当り2000ドル基準)
 上記は2018年に大法院が支払いを命じた額と比較して、物価変動を考慮しても大きすぎる金額とは思われない。実際には請求権協定は3億ドル(無償)で妥結した。判決は、このように要求額にはるかに及ばない3億ドルのみを受けとった状況で、強制動員慰謝料請求権も請求権協定の適用対象に含まれていたものとは、とうてい考えにくいとしている。
   ※
 元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏は、「徴用工問題の解決に向けて」とするハンギョレ新聞への寄稿(2019.7.22)で以下のように述べている。日本人側でなされている議論として紹介しておきたい。

 新日鉄住金を訴えた元徴用工は、賃金が支払われずに、感電死する危険があるなかで溶鉱炉にコークスを投入するなどの過酷で危険な労働を強いられてきた。提供される食料もわずかで粗末なものであり、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰をかせられるなど、極めて劣悪な環境に置かれていた。これは強制労働(ILO第29号条約)や奴隷制(1926年奴隷条約)に当たるものであり、重大な人権侵害である。

 徴用工問題に関しては、劣悪な環境に置いた日本企業に賠償責任が発生するのは当然のことであるが、日本政府・日本国の責任も問題となる。なぜなら、徴用工問題は、1910年の日韓併合後朝鮮半島を日本の植民地とし、その下で戦時体制下における労働力確保のため1942年に日本政府が制定した「朝鮮人内地移入斡旋要綱」による官斡旋方式による斡旋や、1944年に日本政府が植民地朝鮮に全面的に発動した「国民徴用令」による徴用が実施される中で発生した問題であるからである。
 このようなことを考えれば、日本政府は新日鉄住金をはじめとする日本企業の任意かつ自発的な解決に向けての取り組みに対して、日韓請求権協定を持ち出してそれを抑制するのではなく、むしろ自らの責任をも自覚した上で、徴用工問題の真の解決に向けた取り組みを支援すべきである。

 そして、中国人強制連行事件である花岡事件、西松建設事件、三菱マテリアル事件などでは、日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、基金を設立して被害者全員の救済を図ったばかりか、受難の碑ないし慰霊碑を建立し、中国人被害者等を招いて慰霊祭等を催すなどしている例を引いて以下のように述べている。

 ナチス・ドイツによる強制労働被害に関しては、2000年8月、ドイツ政府と約6400社のドイツ企業が「記憶・責任・未来」基金を創設し、これまでに約100カ国の166万人以上に対し約44億ユーロ(約7200億円)の賠償金を支払ってきている。このようなドイツ政府とドイツ企業の取り組みこそ、日本政府や日本企業は見習うべきである。

 最後に、日本弁護士連合会(日弁連)と大韓弁護士協会(大韓弁協)が、2010年12月11日に日本国による植民地支配下での韓国民に対する人権侵害、特にアジア太平洋戦争時の人権侵害による被害と被害回復に関する共同シンポジウムを開催し、「慰安婦」問題や強制動員被害の救済のために「共同宣言」を発表したことを紹介している。参考として、その骨子を掲載しておく。

[参考]
1.われわれは、韓国併合条約締結から100年を経たにもかかわらず、日韓両国及び両国民が、韓国併合の過程や韓国併合条約の効力について認識を共有していない状況の下で、過去の歴史的事実の認識の共有に向けた努力を通じて、日韓両国及び両国民の相互理解と相互信頼が深まることが、未来に向けて良好な関係を築くための礎であることを確認する。
2.われわれは、日本軍「慰安婦」問題の解決のための立法が、日本政府及び国会により速やかになされるべきであることを確認する。この立法には、日本軍が直接的あるいは間接的な関与のもとに設置運営した「慰安所」等における女性に対する組織的かつ継続的な性的行為の強制が、当時の国際法・国内法に違反する重大な人権侵害であり、女性に対する名誉と尊厳を深く傷つけるものであったことを日本国が認め、被害者に対して謝罪し、その責任を明らかにし、被害者の名誉と尊厳回復のための金銭の補償を含む措置をとること、その事業実施にあたっては、内閣総理大臣及び関係閣僚を含む実施委員会を設置し、被害者及び被害者を代理する者の意見を聴取することなどが含まれなければならない。また、日本政府は、日本軍「慰安婦」問題を歴史的教訓とするために、徹底した真相究明と、教育・広報のための方策を採用しなければならない。
3.われわれは、1965年の日韓請求権協定の完全最終解決条項の内容と範囲に関する両国政府の一貫性がない解釈・対応が、被害者らへの正当な権利救済を妨げ、被害者の不信感を助長してきたことを確認する。このような事態を解消するために、日韓基本条約等の締結過程に関する関係文書を完全に公開して認識を共有し、実現可能な解決案の策定をめざすべきであり、韓国政府と同様に、日本政府も自発的に関係文書を全面的に公開すべきことが重要であるという認識に達した。
4.韓国においては、強制動員による被害の救済のために、強制動員被害の真相究明及び支援のための法律が制定されたが、日本政府においても真相究明と謝罪と賠償を目的とした措置をとるべきである。さらにわれわれは、2007年4月27日に日本の最高裁判所が、強制動員に関わった企業及びその関係者に対し、強制動員の被害者らに対する自発的な補償のための努力を促したことに留意しつつ、既に自発的な努力を行っている企業を評価するとともに、他の企業に対しても同様の努力を行うよう訴える。この際、想起されるべきは、ドイツにおいて、同様の強制労働被害に関し、ドイツ政府とドイツ企業が共同で「記憶・責任・未来」基金を設立し、被害者の被害回復を図ったことである。韓国では、真相究明委員会が被害者からの被害申告を受け被害事実を審査していることから、同委員会とも連携し、日韓両国政府の共同作業により強制動員被害者の被害回復を進めることも検討すべきである。


 次回に私見を述べる。


by yassall | 2019-10-01 16:00 | 雑感 | Trackback | Comments(0)