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2019年 09月 16日 ( 1 )

韓国のこと (3) 「徴用工」問題① 問題の所在

 2018年10月30日、韓国大法院は被告である新日鉄住金によって上告中であった「徴用工訴訟」について、原告(元徴用工)らの「強制動員慰謝料請求」を認める判決を下した。
 今日の日韓関係の悪化はここからはじまったといえるだろう。現在直面しているような事態を1年前には誰も予想しえなかった。(日本政府は文在寅大統領が12017年9月金命洙を大法院長に任命したことに懸念を示していたともいうからあるいは政府内部では予想があったかも知れない。)
 日韓関係の改善の糸口は見えてきそうにないし、「徴用工」問題の出口も見つけ出せそうにない。まず、今回は問題の所在がどこにあるかを考えてみたい。
   ※
 日本政府は大法院判決を国際法違反であるとし、新たに就任した茂木外相の第一声も「一刻も早く是正を」であった。国際法違反というのは具体的には1965年に締結された日韓条約(「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約)と同時締結された日韓請求権協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)に違反しているという意味である。
 日韓請求権協定第2条には「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」とあるからである。
   ※
 韓国大法院も日韓請求権協定を知らずに判決を下したわけではない。それでは判決を成立させている論理は何であるのか?
 すると、日韓請求権協定にいうところの「完全かつ最終的に解決」に以下が含まれていると考えられるのか否かが争点として浮かび上がって来るのである。

 ① 日韓請求権協定によって政府間の「外交的保護権」は放棄されたが「個人請求権」は失われていないのではないか?
 ②大法院判決が認めたのは「強制動員慰謝料」である。日韓請求権協定でいう「経済協力」供与に「慰謝料」は含まれているのか?
 ③「慰謝料」の請求には日本による戦前の韓国の植民地支配が不当であったということが前提となる。植民地支配は不当であったのか、「徴用」は非人道的であったのか?
 これに付随して、次のようなことが問題となる。
 ④1910年の日韓併合条約(「韓国併合ニ関スル条約」)はどのように結ばれたのか、「徴用」はどのようになされたのか、またその実態はどのようであったのか?
 ⑤日韓条約、日韓請求権協定はどのような過程で締結されたのか?
 ⑥日韓条約の締結後、韓国では「徴用工」に対する補償・賠償はどのように考えられ、また為されてきたのか? その捉え方はどのように変化してきたのか?

 いずれも答にせまるにはどうしてもくぐり抜けなくてはならない門である。さまざまな見解、思惑、解釈の変遷を歴史的な事実に照らしながら整理していくのは容易ではない。これからそれを始めていくわけだが、せめて問題の焦点が浮き彫りにされればいいと思う。
   ※
 今回は「徴用工訴訟」の大法院判決にいたるまでの経過を確かめておきたい。大まかに3つのラウンドに分けてみると分かりやすいと思われる。

 ①日本での訴訟
  1997年、元徴用工4人が大阪地裁に新日鉄住金を訴える
  2003年10月、最高裁で敗訴が確定する。
 ②韓国での訴訟
  2005年2月、ソウル中央地裁に提訴。
  2008年4月、敗訴。
  2009年7月、ソウル高裁での敗訴。
  2012年5月、韓国大法院が「反人道的不法行為や植民地支配と直結する不法行為による損害賠償は、日韓請求権協定の適用対象に含まれると見るのは難しい」として控訴審の破棄と審理差し戻しを命じる。
  2013年7月、ソウル高裁が元徴用工1人あたり1億ウォンの賠償を認める。新日鉄住金は再上告。
 ③大法院判決
  2018年10月、大法院判決。新日鉄住金の上告を棄却した。

  「徴用工訴訟」判決は支持率が低下してきた文在寅大統領が切った「反日カード」であり、そのために革新系判事であった金命洙を大法院長に大抜擢した、というようなことがいわれる。そのような論は時系列的にも成り立たず賛同しがたい。
 文大統領が春川地方法院法院長であった金命洙を大法院長に任命したのは2017年9月である。しかし、2017年5月に大統領に就任したばかりの文在寅に対する支持は圧倒的で、翌年をみこして大法院長を任命しておいたというのは、いささか陰謀史観に過ぎるだろう。
 むしろ司法壟断を改めようということであり、「積弊清算」の一環であると考えるのが正しいと思う。2019年1月、徴用工訴訟の遅延には朴槿恵前大統領による司法介入があったとして、梁承泰前大法院長が職権乱用などの疑いで逮捕された(本人は容疑を否認)のもその流れの中にあると思われる。(2)の[補足]で引用した「一橋大准教授権容奭氏 韓国で流行「サンキュー安倍」の意」」(日刊ゲンダイ2019.9.9)にも以下のようにあった。
 「元徴用工判決をめぐり、日本では文大統領が仕組み、大法院(最高裁)の判事入れ替えによって恣意的な判決が導き出されたかのように伝えられていますが、それは見当違いの批判です。大法院長(最高裁長官)の任命は大統領の権限で、司法のトップを代えることで政権交代が可視化される一面もある。前政権と司法の癒着が明るみに出たことからも、判事交代は自然な流れでした。」

[補足]
※2018年10月30日韓国大法院による判決文の日本語訳に下記がある。
  澤藤統一郎の憲法日記

   http://article9.jp/wordpress/?p=11400
※梁承泰前大法院長の逮捕については朝日新聞の下記の報道がある。
   https://www.asahi.com/articles/ASM1R6QGYM1RUHBI037.html
 朴槿恵前大統領による司法介入については共同通信の下記の報道がある。
   共同通信:https://www.msn.com/ja-jp/news/national/朴槿恵氏の関与、証言次々と-徴用工訴訟遅延事件で側近/ar-AABo5Le?ocid=se


by yassall | 2019-09-16 16:48 | 雑感 | Trackback | Comments(0)