2014年 10月 05日 ( 1 )

2014西部A地区秋季演劇発表会

 西部A地区秋季演劇発表会に出かけて来た。審査員でも頼まれない限り、よほどのことがなければ他の地区まで観劇にいくことはないだろうが、西部A地区だけは朝から見たくなる。
 今年は6校が出場。1番目は朝霞西高校『無価値なプレゼント』である。金(きん)の架空取引が疑われる怪しげな商社の一室が舞台である。芝居が進行していくと、「贈与(および贈与の応酬)」が隠されたテーマになっていることがわかる。「人とつながり(顧客が貯め込んだ)金(かね)を引き出す」というのは、いわゆる「振り込め詐欺」とは決定的に異なる。むしろ、大企業による内部留保に象徴されるような、資本主義的蓄積に対するカウンターテーゼとして提起されているのである。それは愛に対して見返りを求める「交換」ですらない、新しい人間関係の模索なのである。ただ、そのような問題意識をいだいたことのある人間でないと、なかなか気づくことは難しいだろう。ドラマとしての構成力も十分でないと感じた。
 2番目は新座総合技術高校『Love it』。生徒創作で、人形が命を得るというファンタジックな内容だが、作品世界を客席に伝えようという意欲は以前より強まったと思った。アイデアに負けない構成力が課題だろう。
 3番目は和光国際高校『月の真実、太陽の嘘』。英文学を専攻する大学院生たちが修士論文の一環としてシェイクスピアの「ヴェニスの商人」を演じようとするという設定。シェイクスピア劇は陪審員席を配した舞台設営が効果的で、なかなか見事なセリフ回しであったし、何より稽古を続けながらユダヤ人差別や信教の自由といった問題に目覚めていくという展開は面白かった。だが、入れ子の本体部分というのか、額縁というのか、主人公が実はケンブリッジ大学から派遣された准教授で、ノーベル文学賞をめざしている、というような設定になると、どうしても非現実感が先に立ってしまう。劇中劇と現実世界とのリンクも弱いものを感じた。
 4番目は新座高校『夏芙蓉』。西部Aだけでも上演は複数回になるし、新座高校としても2度目ではないだろうか。よく出来た作品というのは、ただ素直に演じていくだけで感動を与えるようにできているのだが、それだけに自分たちの『夏芙蓉』を演じようとすると難しさもある。しっとりとした良い出来ではなかっただろうか。出番が少ないので、つい配役が弱くなりがちな先生役も良かった。
 5番目は朝霞高校『そして少女は笑みを浮かべる』。ネット台本だが、自分たちで相当手を入れたのではないだろうか。2年生が力をつけてきたのを知っているので、予想したようには笑いが取れていた。間と呼吸の取り方がうまくなった。それだけに惜しい。何としても惜しい。ここまでで終わってしまうのが予め分かっている台本を選ぶべきではなかった。
 6番目は新座柳瀬高校『Loely My Sweet Rose』。サン=テグジュペリの『星の王子様』を原作としている。力作であると思った。構想を得てから、相当の時間と労力が注ぎ込まれたのではないだろうか。よく練られた台本、デザイン力にすぐれた舞台美術、凝りに凝った照明プラン…。そこまでだったら顧問一人の奮闘でも何とかなったかも知れない。だが、私が感心したのは俳優たちのセリフの美しさだ。本当に美しい詩の朗読を聞かされているような酩酊感があった。
 どうやら今年お見えになった審査員のお二人は、舞台から客席に伝わるパワーを重視なさっているようだった。そのようなパンチ力を求められても、確かにこの芝居には見いだせまい。だが、じっと舞台に引き寄せられていく力の存在は疑いようもない。照明がやや暗めに設定されているのさえ、客を舞台上に注視させるため、あえてそのような選択をしたのかと思った。
 実際の人物像とは異なるのだろうが、この芝居をみていて、もしかしてサン=テグジュペリというひとは人間の住まない砂漠や大空に憧れ、何度も旅立ちを繰り返しながら、ある日ふと、大切なものを置いて来てしまった、あるいは別れて来てしまったことを後悔してしまうような人物ではなかったかと思った。
 激しい人嫌いでありながら、ときおり反比例するような人恋しさに襲われ、しかも失われて初めてそのもののかけがえのなさに気づくような…。
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 今年も西部Aからは中央大会への選出はなかった。残念には違いないが、芝居はいずれ1回限りのもの。いつか幕は下ろされるのである。
 まっさらになった舞台に、もう一度新しい演劇空間を築きあげていくのは大変なエネルギーを要するものだが、またこの舞台で新しい幕が上がるのを楽しみにしたい。(写真は卒業生には懐かしい朝霞コミセンの緞帳である。)

by yassall | 2014-10-05 16:40 | 高校演劇 | Comments(2)