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2014年 02月 05日 ( 1 )

小林よしのり『大東亜論』

 書店に平積みになっているのを何度かはパスしたし、ブログで紹介するのだけは止めようと思っていたのだが書くことにした。
 まず、本を買う気になったのは頭山満を描いていることからだ。学生時代に昭和十年代文学をかじりかけた人間として、超国家主義や農本主義について多少とも文献にあたっていた。頭山は明治・大正・昭和にかけて暗躍した右翼の巨頭といわれた人物である。
 だが、アジア主義者としての頭山の器はいわゆる右翼の枠に収まりきれるものではなく、朝鮮独立運動家である金玉均を支援したり、孫文の亡命生活を助け中国革命を援助したりした。その人脈や交遊関係も幅広く、大杉栄や伊藤野枝も頭山を頼ったことがある。玄洋社の周辺には実に多彩な人物が集まり、夢野久作の父親である杉山茂丸(杉山三世代は本当に興味深い)は若き日に頭山に心服したことから歩みをともにするようになった。
 さて本書だが、筆者自身があとがきで「自称保守や右派が完全に忘れている武士の魂(エートス)を甦らせる論を描こうとしているが、それはもはや「論」を越えて「物語」の領域に入ってきている。/読めばただ面白いという物語になれば、それで成功である」と書いているとおり、「物語」として受け止めるべきものだろう。
 だから爆裂弾による大隈重信襲撃事件を引き起こした来島恒喜(決行後、直ちに自死)を英雄視したりなど、過激に走り過ぎていることは否めないし、右翼・左翼の定義も偏向しているとしかいいようがない。それでも参考文献が多数あげられているからそれなりの裏付けがあるのだろうが、様々なエピソードは面白い。
 まあ、内容の紹介はこれくらいにして、なぜブログでとりあげる気になったかというと、欄外のコメントを中心に「あれ、これまともじゃない?」という言説があちこちに散りばめられているからだ。

 
 「憲法は「国民が国家権力の暴走を防ぐ」ための法律である!それが近代憲法の常識だ。自民党の改憲案を見たら、国家権力が国民を徹底的に縛る条文ばかりになっている。こんなものはアホだ!」

 はたまた、

 「民主党が再生するためには脱原発を維持し、野田前首相が掲げたTPP参加を取り消せばいい。日本の伝統・文化とは何か?を学び直せばいい。それをやらない限り、野党の意味をなさない。」

 「櫻井よしこは11月4日付産経新聞でこう書いた。「原発事故で被災した福島・浜通りの人々約30人が9月、チェルノブイリを訪れた。そこで彼らが見たのは日本で報じられてきた放射能保線に苦しむ荒廃した町とは全く異なる、よみがえった町と子育てにいそしむ人々の姿だった。大嘘である!」
 「櫻井は驚くべきことに「スラブチッチ」という地名を隠して、「チェルノブイリ」を訪れたと書いている!「よみがえった町」というが、「スラブチッチ」は原発事故後に「移住」してきた人々の「人工都市」である。平然と嘘を書く神経はすごい!」

 とまあ、当たるところ敵なしの、全開の言いたい放題なのである。
 アジア主義の話にもどれば、最近の「週刊ポスト」では中国・韓国を非難していれば愛国者であるような顔をしている昨今の自称保守・右派を「大志がない!」と切って捨てている。
 こうして紹介はしても、決してすすめているわけではないのだが、「ゴーマニズム宣言」で過激な物言いで物議をかもしてきた小林よしのりが、なぜかまともに見えてきてしまうほど日本が危うくなっているということなのか。
 最後に、頭山、杉山、内田良平、左右の別はあるが松本冶一郎、そして小林よしのりは揃って福岡県の出身である。幕末から日本近代史にかけての福岡の位置についての研究があるなら知りたいと思った。戦中に大政翼賛会を脱退し、東条英機に反旗を翻した中野正剛についての本を読むことにした。
  ※
 この本とはまったく関係がないのだが、最近「いたつき(労き、病)」という言葉を初めて知った。薬草である「虎杖(イタドリ)」が「痛みを取る」ところから呼び名がついたことは知っていたのだが、そうしてみると「労り(イタワリ)」なんかも「痛みを分かつ」から来るのだろうか。長生きしても知らないことばかりである。

小林よしのり『大東亜論』小学館(2014)
〈参考〉
松本健一『竹内好「日本のアジア主義」精読」岩波現代文庫(2000)も面白かった。


by yassall | 2014-02-05 01:37 | | Trackback | Comments(0)