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2013年 05月 14日 ( 1 )

牧野邦夫展

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 寡聞にして牧野邦夫の名はテレビ東京の「美の巨人たち」で知った。テレビで紹介されていた絵ももちろんだが、他の絵も見てみたいと思って出かけて行った。会場は練馬美術館。昨年の中村正義展にも圧倒されたが、今回も絵の前に立つやその場を離れがたい磁力に満ちた美術展となった。
 サブタイトルには「写実の精髄」とある。画家本人も「写実をめざす」とし、レンブラントを終生の目標としていたそうだ。だが、写実を極めると、むしろ夢幻に近づいていくのではないだろうか。人物画が中心だが、美術解剖学(研究ノートも展示されていた)にもとづく骨格や筋肉といった、いわば通常では人間の目には見えて来ないものまでも描き切ろうとしているかのようでさえある。
  「ありのまま」というよりも過剰な克明さ、「見たまま」というよりは明視し得ないものまでも眼前に曝してしまおうという意志がそこにある。
 もちろん、その外形が生き人形のように写し取られ、そこで終わっているというのではない。「舞踏家大森政秀の肖像」では、白塗りされた舞踏家の表情から、その強固な精神性までが伝わってくるような迫力を感じた。
 北方ルネサンスにもひかれていたとのことだが、「未完成の塔」にはブリューゲルの影響が明らかだと思う。遠景には戦火につつまれた影絵の世界が描かれる。決して社会派の画家ではないのだろうが、「インパール(高木俊朗作品より)」では悲惨を極めた戦場を描いて鋭い告発となり得ている。1945年の5月になって学徒出陣、都城で終戦を迎え、帰還途中の列車から被爆直後の広島を見たという体験が核になっているのだろう。
 自画像にこだわった画家であるが、後年の作品になるほど、その顔の周辺といわず画面中に、あるいは隠し絵のように、得体の知れない怪物たちがところ狭しと描き込まれている。
 画家はこれらの怪物に囲まれ、昼夜をついで責め苛まれていたのか、それとも画家本人が命じ、これらの怪物を呼び集めていたのか?


 「牧野邦夫ー写実の精髄ー展」
 4月14日ー6月2日
 練馬区立美術館(西武池袋線・中村橋駅下車5分)
by yassall | 2013-05-14 21:39 | 日誌 | Trackback | Comments(4)