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韓国のこと (10) 東アジア情勢をめぐって

 10月1日付の聯合ニュースによれば、日本が半導体・ディスプレー材料3品目の韓国への輸出規制強化に踏み切って約3か月が過ぎたが、主に半導体の製造工程で使われる液体のフッ化水素の輸出許可が1件も出ていないことが分かったとのことだ。
 これまでフォトレジスト(感光材)3件、フッ化水素1件、フッ化ポリイミド1件について個別に輸出を承認されたが、輸出許可が出たフッ化水素は気体(エッチングガス)で、液体のフッ化水素(フッ酸液)はまだ1回も輸入できていないという。
 韓国の産業通商資源部は、日本は半導体用フッ酸液について国連武器禁輸国と同じ9種類の書類の提出を求めているが、複数回にわたる書類の補完を理由に申請から90日が過ぎても1件も許可されていないともしているという。
 やはり「普通の国と同じ扱いに戻しただけ」というのは表面のことで制裁的な意味合いが明らかだという印象だ。備蓄のきかない製品もあるとのことで、日本による輸出規制の影響がこれからじわじわと出てくるのかも知れない。
 しかし、一方で8月末から9月初めの中央日報や聯合ニュースでは次々と半導体素材の国産化に成功したというニュースを流している。

「国家核融合研究所(核融合研)は8月29日、国内の中小企業との協力を通じ、日本への輸入依存度が100%だった半導体コーティング素材を国産化したと発表した。国内の中小企業、セウォンハードフェイシングが2017年に核融合研から移転されたプラズマ技術を利用し『酸化イットリウム』を開発したのだ」
「韓国のパネルメーカー大手LGディスプレーが、日本から輸入してきた『高純度フッ化水素』の国産品代替に成功した。LGディスプレーは国内のある企業が供給したフッ化水素安定性テスト過程を終えて今月(9月)中に生産工程に適用する予定だ」
「サムスン電子用の国産フッ化水素の試作品が、今月(9月)内に登場する。韓国企業ソルブレインは今月内にDRAM・NAND型フラッシュメモリー工程に使われる高純度フッ化水素の試作品を量産する計画だ。日本企業に劣らない『ファイブナイン』(99.999%)の高純度のフッ化水素液状形態製品だ。中国産の原料(無水フッ酸)を使って生産した。今月内に工場増設を終えると同時に量産に入る」

 こうした半導体素材の国産化は文在寅政権の方針のもとにすすめられている。今度のことで財閥系企業としても日本に生殺与奪を握られることには警戒心を強めだろうし、相当規模の予算も投じられていることから、たとえ文政権に批判的であっても国産化の推進は歓迎していることだろう。
 とはいえ韓国の経済悪化はかなり深刻な様子で、もっとも根本にある問題は米中貿易摩擦であることは誰しもが分かっていることだが、文政権の経済政策に対する批判がことあるごとに強まっているのも確かなことだ。文政権が掲げた政策を実現できるか否かはこの難局を乗り越えることが出来るかどうかにかかっている。
  ※
 GSOMIA破棄は日本の輸出規制・ホワイト国除外に対する対抗措置だというのは通りやすい。その上で、どちらも実質的な支障はないとか、韓国は少ない対日カードを早く切りすぎたとか、侃々諤々の議論が飛び交っている。
 実のところ、韓国政府は日本が対韓輸出規制の強化を撤回すればGSOMIAの終了決定を再検討するというような発言があったり、9月26、27日にソウルで開催された統合国防対話の席上で米国側はGSOMIAの終了を決めたことについて改めて懸念を表明したというようなことが進行中である。
 そのことに関連してアメリカが仲裁に入るかどうかは不明だが、9月23-26日にアフリカ・ソマリア近隣のアデン湾で韓国・日本・イタリア3カ国の合同訓練が実施されたり、10月1日には北朝鮮による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられるミサイル発射に関連してGSOMIAに基づく情報共有を日本側に要請したとというような事態が起こっている。
 したがって本当にこれから述べるような方向に向かっていくかどうかは分からない。だが、GSOMIA破棄の決断を聞いたとき、東アジア情勢の流動化、そして再編のはじまりの予感があったのだ。
  ※
 もともと韓国内では日本とのGSOMIA締結には反対の世論が大きかった。2009年、北朝鮮による長距離ロケット発射と核実験の強行を契機にして日本から提案された。李明博政権時代のことである。
 2012年6月、李明博政権は国務会議で非公開案件としてGSOMIAを上程し議決した。しかし、この事実が伝えられると野党や市民団体、世論が強く反発し、署名の前に協定は取り止めになった。その後、2016年に朴槿恵政権は再びGSOMIA締結を推進し、11月22日の国務会議で議決するや一日で署名式まで終えたという。
 協定締結の必要性をもちかけたのはアメリカである。日米韓三国による軍事同盟をアジア政策の基盤として中国・北朝鮮、さらにはロシアをも押さえ込む戦略である。GSOMIA破棄が伝えられたとき、日韓両国とも実質的は困らない宣伝したのはあながち強がりではないように思う。GSOMIAは単なる象徴でしかなく、肝心なのは三国の共同体制なのであり、アメリカの懸念もそこにあるのである。
 とすれば、GSOMIA破棄が投げかけるものは共同体制の解体であり、東アジア情勢の再編である。実際には韓国政府は米韓同盟を堅持していくことを強調しているから、一気にそこへすすんでいくことはないだろう。しかし、韓国の身になってみれば、将来的にでもそうした方向をめざしていく可能性を否定できないのではないかと私は思っている。なぜなら三国共同体制といっても、地勢的にも、国家間の力関係からいっても、最前線に立たされるのは韓国であり、日米が後方支援あるいは有事来援ということになるのは目に見えているからである。
  ※
 アジア世界における冷戦構造とその延長としての日米韓軍事協力体制という戦後的枠組みに対する変更の要求が起こっているとしているのは内山節氏である。

 韓国の文政権は、この構造に挑戦する意志をもっているようにみえる。(中略)(日韓条約を)締結したのは、軍事独裁政権であった李承晩や朴正煕政権である。現在の文在寅大統領からみれば、このふたつの政権自体が、正統な政権ではなかったということだろう。それは朝鮮戦争を背景にしてアメリカがつくりだした傀儡政権にすぎない、ということである。だからこの政権が結んだ日韓条約も、みなおす必要があるというのが、現政権の本音であるように思える。(「新しい激動のはじまり」/『東京新聞』「時代を読む」2019.9.8)

 そして、

 このような動きが生まれた大きな原因は、アメリカの力の低下と中国の台頭だろう。力を低下させたからこそアメリカは、外交を国家間商取引としか考えない大統領を生み、中郷は自国を柱とした新しい世界秩序の創造を要求している。(同前)

 として「戦後の終わりと新しい激動のはじまり」を予言し、「戦後的安定とは異なる」世界をつくるための構想力が求められるとしている。
 前回に紹介した浅井基文氏も次のように書いている。

 (戦後冷戦構造の)呪縛から自らを解放し、パワー・ポリティックスにしがみつくアメリカとの関係を批判的に総括するとともに、脱パワー・ポリティックスの新しい国際秩序を提唱する中国を直視し、その中国との協力の可能性を視野に入れる真新しいパラダイムを我がものにしない限り、私たちが「脱冷戦の新たな北東アジアの秩序」形成の主体的担い手になることは難しいと思います。

 個人的には、今日の香港情勢などを直視すると、「中国との協力」にはまだまだいくつもの障壁があるように思われる。しかし、無視し得ない巨大な力を蓄え、一帯一路構想やアジアインフラ銀行を実行しつつある中国に対して、たとえば中国の海洋ルート確保に敵対し続けるような防衛構想を持ち続けることが真に国益にかなっているのか、日本も再検証のときが来ているように考えるのである。
  ※
パワーバランスの変化は中国とアメリカの間だけではなく、日韓間にも起こっているという論も多数存在する。中島岳志氏は『東京新聞』「論壇時評」(2019.9.25)で、国力をつけた韓国が「日本による植民地時代の過去を遅ればせながら『正す』力がついたと自負している」とする、浅羽祐樹氏の次のような文章を紹介している。

 日韓基本条約と日韓請求権協定が結ばれたのは1965年。(中略)当時は日韓の間に明確なパワーバランスの差があった。しかし、韓国の国力の飛躍的高まりにより、両国の関係性が変化した。「朝鮮戦争後、『外勢』に押し付けられた休戦協定体制から、『朝鮮半島における平和体制』を自ら創っていこうとしている。」(「韓国と『友人』であることは諦めた方がいい」文春オンライン、2019.8.7)

 ジョージメイソン大学博士課程にあってメッセージを送り続けている古谷有希子氏も「60年代から70年代の韓国にとって、日本は貿易対象国としても、また国家の発展モデルとしても重要な存在」であったが、その重要性は時を経て「徐々に下がっていく」として、次のようなデータをあげている。

 1960年の貿易対象国の中では、日本は輸出の6割を占めていたが、1975年には25%、1985年には15%、そして2005年には5%まで下がっている。
 また、輸入においても日本は1960年には21%、その後70年代は30%を維持するも、80年代から90年代までに20%台に下がり、2005年には19%を切っている。(出典:吉岡英美「日韓経済関係の新展開-200年代の構造変化を中心に」韓国語)」(「日韓関係の悪化は長期的には日本の敗北で終わる」192019.8.17)


 そして日本の政府要人が繰り返す歴史修正主義的発言の裏にあるのは、「韓国ごとき」「日本より格下」といった植民地的差別心であり、「馬鹿にしていい相手」「何をしてもやり返せない相手」といった認識を改めない限り、いつまでも韓国を相手に歴史問題を先に進めることはできないとしている。
  ※
 私も最近になって知ったのだが、昨年9月末の在韓米軍の人員は陸軍1万7200人、空軍8100人など計2万5800人。これに対し、韓国軍の総人員は62万5千人。うち陸軍が49万人、空軍が6万5千人、海軍が7万人となっている。装備的にも西欧諸国とは遜色ないレベルに達しているという。(田岡俊次「在韓米軍の撤退はもはや既定路線」AERA、2019.9.11)
 ちなみに在日米軍は4万4800人、軍属・家族を合計すると 9万4200人で在韓米軍の2倍近い。自衛官は陸上自衛隊 135,713人、海上自衛隊42,136人、航空自衛隊42,939人、幕僚等3,634人、合計224,422人 (『防衛白書』H29)である。
 もうアジアで血を流すことを望まないアメリカは在韓米軍兵力を削減したいと考えているし、それは財政的な要請でもある。2006年、盧武鉉大統領は戦時作戦統制権の返還を求め、2007年の米韓国防相会談で2012年4月に統制権を韓国に移すことで合意した。だが、北朝鮮の核・ミサイル開発への対処といった問題もあり、李明博大統領は統制権移管を15年12月まで延期、朴槿恵大統領も「20年代中ごろまでに」と再度延期した。文在寅大統領は在任期限の22年5月までに移管の実現を目指しているとされる。(日米安保の場合は「指揮権密約」により緊急事態のときはいちおうの協議の後、自衛隊はアメリカの指揮下に入ることが決まっている。)
 対北朝鮮ということであれば、韓国は通常兵器による戦闘ではこれを撃退する自信を持っているだろう。韓国軍創設を祝う「国軍の日」の10月1日、文在寅大統領は祝辞で「わが国軍は独立運動をルーツとする愛国の軍隊であり、南北の和解と協力を導く平和の軍隊、国民が苦しい時に先頭に立つ国民の軍隊だ」と述べた。その意味するところは強力な軍事力が背景にあるからこそ抑止力がはたらき、南北の和平交渉をすすめることが出来るということである。
 その点では、文在寅は単純な軍縮論者ではない。「より強力かつ正確なミサイル防衛システム、新型潜水艦と軽空母級揚陸艦、軍事衛星をはじめとする最先端の防衛システムにより、わが軍はいかなる潜在的な安全保障脅威にも主導的に対応することになるだろう」とも語ったように、むしろ軍備の拡充には力を注いでいるようである。
 軍事力による抑止によって本当に平和がもたらされるのかについては疑問も残るが、休戦状態にある朝鮮半島においては現実的な対応というしかないのだろう。
  ※
 南北統一問題については考察の途中である。「社会主義強国」論(2016.5第7回党大会)以来、北朝鮮も「経済発展に向けた周辺環境の整備」「東アジア冷戦の解体」を掲げるようになった。しかし、統一問題に対する南北の方向性にはまだまだ大きな隔たりがあるように思われる。
 10月24日、文在寅大統領は国連総会の一般討論演説で、北朝鮮との軍事境界線がある非武装地帯(DMZ)を「国際平和地帯」に変える構想を打ち出し、北朝鮮と共同でユネスコ世界遺産への登録を目指す考えを訴えた。そして「韓国は北朝鮮の安全を保証し、北朝鮮も韓国の安全を保証することを望む」と述べ、南北共同の「平和経済は朝鮮半島の平和を強固にし、東アジアと世界経済の発展に寄与する」と展望している。
 確かにDMZの平和地帯化がただちに「北朝鮮の安全を制度的にも現実的にも保証することになる」とは言えないから、「再び対座しない」として韓国との対話を拒否する北朝鮮が共鳴する可能性は高くないだろう。
 しかし、休戦状態が解消され、相互不可侵という約定が信頼関係にまで高められるなら、東アジア情勢は劇的に変化していくことだろう。「制裁」の強化によって北朝鮮を孤立化させるという方策は失敗だった。北朝鮮の暴走や暴発を食い止め、国際社会との協調をうながすためにはどうしたらよいか、再検討が迫られているのではないか。
 文在寅国連演説はその選択肢のひとつであると思われる。世界がその実現に協力し、各国共がそこからはみ出ようとすることを厳しく監視する。各国というのは韓国・北朝鮮だけでなく、中国・アメリカ・日本他を含める。そして「平和地帯」を朝鮮半島さらにアジアへと広げて行く。それしかないではないかと今は考えている。
 いかに軍事力を高めても、ひとたび戦争が開始されれば双方が壊滅的な打撃を受けるのは目に見えている。やはり平和をめざすしかないのだ。


by yassall | 2019-10-11 13:23 | 雑感 | Trackback | Comments(0)
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