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韓国のこと (7) 「徴用工」問題⑤ 「損害賠償請求権」の正否(上)

 今回は「損害賠償請求権」の正否について考える。これをもってひとまず「徴用工」問題についてのまとめとしたい。
 最初に関連する条文と文書を引用しておく。必要によってそのつど参照したい。

「日韓請求権協定」第二条
(「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」)

1.両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
3.2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。

「韓国の対日請求要綱」(8項目)
①1909年から1945年までの間に日本が朝鮮銀行を通じて大韓民国から搬出した地金及び地銀の返還請求
②1945年8月9日現在及びその後の日本の対朝鮮総督府債務の返済請求
③1945年8月9日以降に大韓民国にから振替または送金された金員の返還請求
④1945年8月9日現在大韓民国に本店、本社または主たる事務所がある法人の在日財産の返還請求
⑤大韓民国法人または大韓民国自然人の日本銀行券、被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求
⑥韓国人の日本国または日本人に対する請求であって上記①ないし⑤に含まれていないものは韓日会談の成立後、個別に行使することができることを認めること
⑦前記の各財産または請求権から発生した各果実の返還請求
⑧前記返還と決済は協定成立後直ちに開始し遅くとも6ヶ月以内に完了すること


 「日韓請求権協定」第2条第1・3項には、両国及び国民の間の「請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決された」ことが明記されており、協約の締結以降は「いかなる主張もすることができない」とあるのだから元「徴用工」らは賠償請求をすることが出来ないとする意見は韓国内にも存在する。
 大法院判決にたずさわった13名の大法官のうち4名の大法官が2通りの個別意見を提出している。1つは差戻判決の拘束力についての意見であり、上告を棄却すべきであるという結論は支持するとしている。3名連名によるもう1つの個別意見は「個人の請求権自体」は請求権協定によって消滅するということは出来ず、上告棄却という結論には変わりないが、「原告の損害賠償権」については請求権協定に含まれると解釈すべきだとするものである。
 これらの個別意見とは別に2名連名による反対意見がある。その骨子は①原告の損害賠償権については請求権協定の対象に含まれる、②請求権協定を個人の請求権と関係なく外交的保護権を放棄するだけの条約とは解しがたい、という2点である。
 以下、反対意見に沿って内容を検証してみる。
  ※
(1)反対意見の立場:
①請求権協定の「完全かつ最終的に解決」とは、外交保護権だけを放棄したことを意味するのか、請求権自体が消滅するという意味なのか、もはや訴訟によって請求権を行使することができないことを意味するのかは、基本的に請求権協定の解釈に関する問題である。
②法令の解釈・適用権限は司法権の本質的内容をなすものであり、これは大法院を最高法院とする裁判所に専属する。
③1969年に締結された「条約法に関するウィーン条約」第31条(解釈の一般規則)によれば、条約は全文及び附属書を含む条約文の文脈及び条約の対象と目的に照らしてその条約の文言に付与される通常の意味に従って誠実に解釈しなければならない。
(2)「請求権協定」第2条の解釈:
①外交的保護権の行使主体は被害者個人ではなくその国籍国であり、外交的保護権は国家間の権利義務に関する問題に過ぎず国民の個人の請求権の有無に直接影響を及ぼすことはない。
②ところが請求権協定第2条は大韓民国の国民と日本の国民の相手方の国とその国民に対する請求権まで対象としていることが明らかであるから、請求権協定を国民個人の請求権とは関係なく両締約国が相互に外交的保護権を放棄するだけの内容の条約であるとは解しがたい。
(3)個人請求権:
①日本は請求権協定締結後、両締約国の国民の個人請求権が消滅するのではなく、外交的保護権のみを放棄したものであるという立場をとってきた。これは日本政府が自国の国民に対する補償義務を回避するために「在韓請求権について外交的保護権を放棄した」という立場をとったことから始まったものである。
②しかし、大韓民国は最初から対日請求要綱8項目を提示し、強制徴用被害者に対する補償を要求し、請求権資金の分配は全的に国内法上の問題であるという立場をとり、このような立場は請求権協定締結当時まで維持された。
③請求権協定締結後、大韓民国は請求権資金法、請求権申告法、請求権補償法、犠牲者支援法などを制定して強制徴用被害者に対する補償金を支給した。このような事実を総合してみると、請求権協定当時、大韓民国は請求権協定により強制徴用被害者の個人請求権も消滅するか、少なくともその行使が制限されるという立場をとっていたことが分かる。
(4)賠償請求権:
①「請求権協定の合意議事録(Ⅰ)」(※)は請求権協定第2条について「同条1にいう完全かつ最終的に解決されたこととなる両国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題には、日韓会談において韓国側から提出された「韓国の対日請求要綱」(いわゆる8項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがつて、同対日請求要綱に関しては、いかなる主張もなしえないこととなることが確認された。」と規定している。
 ※「請求権協定の合意議事録(Ⅰ)」(正式名称「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定に対する合意議事録(Ⅰ)」)は請求権協定の同日に締結され1965.12.18に発効した。
②対日請求要綱8項目の中には「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の弁済請求」が含まれている。(冒頭の引用の⑤)
  ※
 この反対意見のみならず、判決文全体が国際法も参照した精緻な論理で成り立っている。巷間いわれるような情緒法の割り入る隙はない。この反対意見も十分な説得力を有している。実際、盧武鉉政権も、李明博政権も日本に動員された徴用工の未払い賃金の供託金は請求権協定を通じて韓国政府が受領した無償支援3億ドルに含まれており、「日本政府に請求するのは困難」とした。
 次に大法官2名連名による「多数意見に対する補充意見」を見ていくのだが、その前に筆者としての補足をしておきたい。
①韓国のこと(4)で引用した1991年の柳井答弁をみる限り、韓国側のみ個人請求権が消滅しているとは読み取れない。

 「日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。(中略)これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」

②韓国のこと(5)ですでに触れた第5次日韓会談時に韓国側が『苦痛を受けた歴史的被害事実』に基づく政治的補償を求めた事実があったこと、対日要求8項目の5との関連については最後にもう一度述べる。
 第6次会談以降、朴正煕の政権奪取によって日韓条約締結の動きが加速化し、「経済協力」「独立祝賀金」等に「補償」問題も含めた総額決定方式で妥結へすすんだことも、金額的な検証も含めて最後に最後にもう一度述べる。


by yassall | 2019-09-30 15:15 | 雑感 | Trackback | Comments(0)
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