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韓国のこと (4) 「徴用工」問題② 「外交的保護権」と「個人請求権」


 日韓請求権協定第2条1項は「両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が…完全かつ最終的に解決されたことになることを確認する」と規定している。
 この最終条項にかかわらず、失われたのは「外交的保護権」のみであり、「個人請求権」は失われていないという論が存在する。「外交的保護権」とは自国民の損害について政府が相手国に追求する権利であり、「個人請求権」とは個人が直接賠償を求める権利である。
 「個人請求権」が国際的な法概念に存在しているのかどうかは私は知らない。人権意識の高まりの程度にも関係するものであるだろうから、むしろ断るまでもなく当然という解釈もあるだろう。確かに言えることは「個人請求権」は日本政府によってその存在が言明されて来たことだ。
   ※
 経過としては、①サンフランシスコ平和条約(1951)、日ソ共同宣言(1956)にも類似の請求権放棄条項があり、これらの条約により相手国(アメリカ、ソ連)に対する損害賠償請求権が失われたとして、原爆被爆者とシベリア抑留被害者が日本国に補償を求める訴訟を提起したことを発端とする。
 これに対し被告の日本国は、「条約によって放棄されたのは日本政府の外交保護権であり、個人(被爆者、抑留被害者)の損害賠償請求権は失われていないから、日本国は補償責任を負わない」と主張したのである。(つまり、国としては個人に代わって請求は出来なくなったから、あとは個人として勝手に請求してね、ということなのだろう。)

 ②これは日韓請求権協定にも適用され、外務省は「完全かつ最終的に解決」とは外交保護権の放棄を意味するに過ぎず、個人の請求権は失なわれないから、朝鮮半島に資産を残してきた日本国民に対して日本国が補償する責任は負わないと説明していたとされる。

 ③さて、上記はいずれも日本の国民向けになされた説明であるが、1990年代に国会で追及を受けた結果、日本政府は韓国人被害者についても日韓請求権協定で放棄がされたのは「外交保護権」にすぎず、「個の請求権」は消滅していないことを認めた。
 柳井俊二外務省条約局長は1991年8月の参院予算委員会で、日韓請求権協定と「個人請求権」の関係について明確に表明している。

 「日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。(中略)これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」

 (これは後の問題に関連することだが、「個人請求権」とは別に、1991年の柳井答弁では「慰謝料は実体的な財産権に該当しない」とされたことも、2018年11月14日の外務委員会で穀田恵二(共産党)委員によって再確認されている。)

 ④2000年になると日本政府は態度を変え、戦後補償問題は条約の請求権放棄条項で解決済みと主張するようになった。日本人被害者から補償請求を受けた時と、外国人被害者から賠償請求を受けた時に正反対の解釈をすることになった。

 ⑤このあたりの論理がどうなっているのか、よく分からないのであるが、一つには「サンフランシスコ平和条約の枠組み」論が称えられている。「実体的権利」は失われていないが、訴訟によって平和条約締結後に混乱を生じさせる恐れがあり、条約の目的達成の妨げとなるので、「個人請求権」は民事裁判上の権利を行使できないとするというものである。
 2007年、中国人・「元華人労務者」らが西松建設を相手に起こした損害賠償請求裁判では、1972年の日中共同声明に「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」とあることから、この「枠組み」論が適用された。ただし、このときの最高裁判決では「請求権放棄条項で失われたのは被害者が訴訟によって請求する権能であり、被害者個人の実体的権利は失われていない」として「個人の実体的権利」の存在は認めていた。また、強制連行の事実を認め「被害者の苦痛は極めて大きい。関係者の被害救済に向けた努力が期待される」として自主的な救済を求めた。その後、西松建設は和解に応じている。

 ⑥また日本政府はその後、個人の請求権は消滅していないが、相手国・国民がこれに応じる法的義務は消滅しているので「救済されない権利」であると説明することもあったようである。

 ⑦韓国人「徴用工」問題では、1965年の請求権協定によって日本から韓国に渡った合計5億米ドルのうち、無償3億米ドルの中に元「徴用工」に対する補償金も含まれているとし、元「徴用工」らが有する「個人請求権」は韓国政府に対して行使されるべきであるという論がある。「個人請求権」は消滅していないが韓国側に移動したという説明である。
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 今後、特に焦点となるのは⑦である。(5)(6)でこれらを検証していこうと考えているが、以下のようなことがポイントとなることを予告しておきたい。

・日韓請求権協定の第1条は「日本国が大韓民国に経済協力(無償供与及び低利貸付け)する。」とあり、第1項には「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない。」とある。補償のために支払うとはどこにも書かれていないばかりか、「経済の発展」に役立つことが条件とされているのである。
・1965年日韓条約締結以降、不十分ながら元「徴用工」らに対する補償を始めている。すると韓国政府は「経済協力」資金の中に補償金が含まれていることを認めたことになる。それは条約締結にいたるまでの交渉過程に根拠がある。それではどのような交渉がなされたのであるか、相互の主張、金額を含めた妥結点を確かめたい。
・未払い賃金といった供託金等の補償に対して2018年大法院判決が認めたのは「精神的苦痛に対する慰謝料」という賠償である。その正当性を検証したい。


[参考]
以下は茂木外務大臣の会見記録である。内閣改造によって新たに就任したが「徴用工」問題に対する姿勢は従来と変わるところがない。ただ、何とも歯切れが悪いように思える。

令和元年9月13日(金曜日)13時49分 
於:本省会見室
旧朝鮮半島出身労働者問題(大法院判決)
【共同通信 斎藤記者】今日,最初の定例会見ですので,日韓摩擦のきっかけになった元徴用工の大法院判決,これについての茂木大臣の基本的な認識をお伺いしたいと思います。2点あります。1点目ですけれども,大臣は11日の就任後の会見で,この判決について,国際法に違反し日韓関係の基礎を覆していると,このようにおっしゃられました。これは原告の個人請求権は日韓請求権協定に基づいて消滅したという考えに基づく見解なのかどうか,この点をまず確認させていただきたいと思います。
【茂木外務大臣】日韓請求権協定の第2条の1で,財産請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認して,さらに第2条の3で,一方の締約国およびその国民の他方の締約国およびその国民に対する,すべての請求権に関していかなる主張もすることができないとしております。したがって,一切の個人の請求権は,消滅していないとしても救済されない。また国としては救済できない。このような法的な規定になっております。
【共同通信 斎藤記者】2点目ですが,その関連になりますが,大法院判決では,例の日韓請求権協定に基づく5億ドル,有償無償の5億ドルの経済協力金の供与について,判決はその損害賠償,慰謝料請求権,損害賠償の性格までは有しているとは認めがたいと,こう判断していると理解しております。同時に非人道的な扱いを受けた原告の慰謝料請求権については,今,大臣からお話がありましたけれども,第2条の対象には入らないと。つまり趣旨としてはもともとこれは一般的な。
【茂木外務大臣】分かっていると思います。よく理解しています。
【共同通信 斎藤記者】分かりますか。これについて,ではそうなってくるとこちらのほうとして,いやいや,慰謝料の分も全部含まれていると,だから払ったんだからチャラだと,という立場をとるのか。そうなってくるとその根拠はどこにあるのか,あるいはそうとらないのか。その点についてご説明いただきたいと思います。
【茂木外務大臣】日韓請求権協定に基づいて,我が国はご案内のとおり,韓国に対しまして,無償3億ドル,そして有償2億ドルの経済協力を行ったわけであります。それと同時に同協定によりまして,日韓両国および国民の財産請求権の問題は,完全かつ最終的に解決済みである,こういったことを確認したわけです。
 したがいまして,日本企業に対して慰謝料の支払いを命じた韓国大法院判決,これは同協定に明確に違反をいたしております。      (外務省HPより)


by yassall | 2019-09-17 16:01 | 雑感 | Trackback | Comments(0)
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