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金孝淳『祖国が棄てた人びと 在日韓国人留学生スパイ事件記録』出版記念講演会

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 『祖国が棄てた人びと 在日韓国人留学生スパイ事件記録』明石書店が出版された。11月22日、著者の金孝淳(キム・ヒョスン)氏による出版記念講演会が開催された。同講演会は大阪でも開催される予定で、金孝淳氏はそのために招かれ、来日したようだ。会場は、監訳者である石坂浩一氏が准教授をつとめる立教大学である。
 案内を届けてくれたのは元金元重救援会のMさんである。高校の1年後輩である金元重(キム・ウォンジュン)が1974年に母国ソウル大学に留学し、翌年「11.22学園浸透スパイ団事件」の被告として逮捕・拘禁されたこと、Mさんらが中心となって同窓生の会が結成され救援活動がはじまったことなどは、今年1月の映画『自白』の上映会の報告でもふれた。また、韓国では「真実・和解のための過去事(過去史)整理委員会」が設置され、金元重も2011年に再審請求を決意し、翌年2012年に無罪を勝ち取ったことも紹介した。
 本書は2015年韓国で出版された。その経緯は「在日同胞政治犯再審弁護団」団長として再審請求にたずさわった李錫兌(イ・ソンテク)氏が、一連の再審裁判の記録と、在日韓国人スパイ捏造事件の時代的背景、日本における救援運動などを整理、記述して残す必要を痛感し、金孝淳氏に委託したことによるという。
 金孝淳氏は1988年の『ハンギョレ新聞』創刊に参加し、東京特派員などを経て、編集人(主筆)を長く務めた人、また李錫兌氏はセウォル号惨事特別調査委員会委員長も務めたという人物である。ともに韓国の民主化運動を担ってきた人びとということが出来るのだろう。
 金元重の救援活動にたずさわっていた当時から、もちろん事件がまったく前後の脈絡もなく起きたことではなく、もっと大きな背景を持つものであることは認識していた。「11.22」に先立つ1971年には徐勝・俊植兄弟事件が日本でも大きく報道されていた。
 本書は12章からなり、1950年代の進歩党事件にはじまる韓国現代史における「北朝鮮のスパイ」捏造の歴史、在日韓国民主統一連合(韓民統)に代表される韓国の民主化運動に呼応した在日の人びとの運動、李承晩政権が倒れたのちの朴正煕政権以降の日韓関係史にも視野を広げ、当時の私にはあいまいな知識でしかなかった事柄もきちんと整理されている。参考文献や人名索引も充実し、一目見てたいへんな労作であることが知れる。
 私たちが関わった金元重については「思想まで罪に問われた在日青年」の1章が充てられている。「スパイ」捏造のための「思想犯」の典型であるのだろう。真っ先に読んでみると、公判記録を日本語訳しては知ったことなど、当時の記憶が甦ってきたが、彼が帰日してからも私たちに語ることのなかった実態や心中が書かれていて、あらためて彼が直面した苦難と、その苦難を乗り越えた彼の勇気に敬服する思いだった。
  ※
 この章は金元重本人へのインタビューにもとづいて書かれたのだろう。「母国を尋ねて人生が台無しになったと考えるかとの問いに対してこんな答えが返ってきたという。(Mさんの最初のメールでも紹介されていた。)



  留学に行くと決心したとき、かなり危険であるということを認識していた。軽く考えすぎた点もあったが、途方もない運命を背負うことになったわけではない。母国にいる同世代の若者が、時代の痛みを背負い耐えていた現実のなかで、私が無駄な歳月をすごしたとか、母国に行って人生を台無しにしたなどとは考えていない。だからといって自慢するほとのことは何もないが、母国留学に行ったのを後悔したことはない。



 そして、私たちに何が出来たのだろう、という思いは消えないが、日本の救援会活動が「長い収監生活のあいだ、彼の大きな支えになった」という記述があるのは救いのように感じた。
  ※
 最初、本書は「在日韓国人問題に対する社会的関心を高めるため」として韓国国内の人びとに向けて出版された。だが、「でっち上げを支えた日韓右翼の暗躍」の章もある通り、日本と無関係であったわけではない。今回、日本語訳が出版されたことの意義は決して小さくない。
 表には出なかったが、金元重はインタビューに応じただけではなく、本書の日本での出版にも尽力したとのことだ。彼と彼の同胞たちの歩みは今も続いている。私の場合、彼が帰日を果たすまでの一時ではあったが、その歩みの一端にふれる機会があったことは、私自身の人生にもなにがしかの意味を与えてくれたのだと今は思っている。
 
 金孝淳『祖国が棄てた人びと 在日韓国人留学生スパイ事件記録』明石書店(2018.11.15)

 ※大坂での講演会も無事に終了したというメールが金元重氏から届いた。本書の書店での販売は27日からになりそうだが、すでにamazonなどで予約が700部くらいに達していて、明石書店もびっくりしているとの報があった。運動に関わった人以外でも、ぜひ多くの人に読まれて欲しいと願っている。それだけの本だと思っている。


by yassall | 2018-11-26 16:31 | 日誌 | Comments(0)
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