葉山と東京ノ温度との関わりは2017年1月の第3回公演からはじまり、今回で3回目である。小劇場での公演ながら着実に回を重ねていることは立派だと思うし、そうした中で葉山が使われ続けていることはありがたいことだと思う。 葉山が演じる主人公・秋山珠理奈はシャーロック・ホームズに深いあこがれを持ちながら、実は浮気調査専門の私立探偵事務所につとめている。まだ見習いであるのに、求人情報をみて面接にやってきた和田(和田さん→ワトソン)とともに、所長に無断で猫のポシェット連続盗難事件にとりくみ、そこに浮気調査依頼を装った別れさせ屋とのドタバタがからむといった内容である。 東京ノ温度の芝居は「ワンシチュエーションコメディ」というコンセプトにある通り、尖ったところのない、安心して見ていられる芝居をめざしていると理解している。第3回はAI社会の問題、第5回は現実世界とバーチャル空間の接点における死者と生者の再会といった、未来的あるいは宇宙的なテーマを扱っていた。 それらに比して、今回は不倫やスキャンダルといった、いっそう日常的な関心をもとに芝居が組み立てられている。しかし、それだけに人間の心に生まれる猜疑心や誤解から始まった怨恨の無意味さが、軽いタッチの中にもチクリと胸に刺さってくるしかけになっている。SNSや加熱する週刊誌報道、ちょっとした時事ネタなども盛り込まれていて、確実に客をつかみ、笑いをとることに成功している。 それよりも何よりも、題名にある通りのシャーロキアンぶりに関心させられる。よほど読み込まない限り、推理小説のかなりの愛好者でも知識にないような、さまざまな作品の断片が次から次へと引用される。そして東京ノ温度らしく、それらの断片が人生を送るにあたっての警句や人々の苦悩を解消させる癒やしになっているのである。マニアックであるがそれだけに終わらない幅の厚みが感じられる。 川島広輝は劇団マカリスターに所属する俳優・劇作家・演出家で、東京ノ温度を旗揚げしたのは2016年だそうだ。劇団員としての活動は続けながら、やはり自分の思うような芝居づくりをしたいという欲求があるのだろう。ただ、若い俳優たちに舞台に立つチャンスを与えようとしているようにも見える。思い込みかも知れないが、実質的にそうなっているように思われる。そんな中、葉山は連続して主役級の役所を与えられている。その信頼に応えてか、葉山の演技も安定感が増し、他の若い俳優たちをリード出来ていたと思う。
by yassall
| 2018-04-30 16:51
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