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MONGOLIAN TEAM

 日馬富士事件以降、大相撲が大揺れである。TVのワイドショーやニュース番組でも、他に報道すべき大事なニュースはないのか、といいたくなるくらい毎日のように取り上げられている。場所がはじまるとにわか大相撲ファンになる私も、日馬富士が引き起こした暴行にせよ、後述する白鵬の場所中の態度にせよ、横綱としてあるまじき行為だと思ったし、何をしてくれたのだと怒りを感じたことは確かだ。せっかくの一年のしめくくりの九州場所なのに、観戦を心から楽しむことはできなかった。
 まだ全容も不明の段階で、しかも事態は流動的で、あらぬ方向へと動いていく可能性もある。何事かを発言する段階ではないと思うのだが、このところの報道ぶりを見ていて、やはりがまん出来なくなったので書くことにする。
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 もちろん非は事件を起こした側にある。しかし、私が感じている不快感の一方には事件をめぐっての報道のあり方がある。事件発覚後、「日馬富士は日頃から酒癖が悪かった」という暴露めいた報道がされた。はて、法政大学の大学院にもすすんだインテリ横綱として知られた日馬富士にも知られざる一面があったのか、と思っていたら、引退の記者会見で本人は「酒の上のことではない。酒癖が悪いといわれたことは一度もない」と述べた。どちらが本当なのか分からないが、「酒の上のことでなければその方が問題」というように論調が変わりこそすれ、その後本人の言葉を否定するような記事はなかった。どこから流れてきたか分からぬ風評やら憶測を選別しようともせず、いきおい任せに過熱をあおっているのではないかと勘ぐってしまうのである。
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 日馬富士の刑事上の処罰についてはこれからだが、横綱引退ということで社会的制裁は受けたといってよいだろう。日本国国籍を持たない日馬富士は(一部には国籍取得に動いていたとの報道もあったが)親方として大相撲に残ることは出来ない。それも自業自得、と切って捨てるにはさすがに気が引けたというわけではあるまいが、「17年間積み上げてきたものを一瞬で失った」本人への同情の声も上がり始めた。
 すると、矛先を失ったのか、今度は「本当に悪かったのは最初に説教をはじめた白鵬」として非難が白鵬に集中するようになった。「説教」云々は場所後に白鵬が危機管理員会の聴取に応じたころからの情報だから、本人が隠し立てをしていたということでもあるまい。だが、その報道があってから、中には「白鵬が目配せした」ことから暴行が始まったなどと、まことしやかに語る記事までがあらわれた。
 白鵬についていえば、自称元「勝手に応援団」の私としても、十三日目にみせたいわゆる「物言い」の態度は横綱の名を自ら汚すものであったとしかいいようがないし、優勝を決めた十四日目の遠藤戦で勝ちを急ぎすぎたのか、しばらく封印していたカチ上げを繰り出したのも褒められる相撲ではなかった。千秋楽の豪栄道戦こそ力相撲とはなったが、せっかくの40回目の優勝なのに大横綱になりそこなった、というのが実感だった。
 しかしながら、日馬富士の引退後、今度は「貴乃花VS協会VS白鵬」とでもいうべき構図がつくられていくのを目の当たりにすると、そもそもの問題の根源は何だったのかと問い直したくなる。長年スポーツ報道にたずさわってきた大隅潔にいたっては、各局のワイドショーやニュース番組に呼ばれては「相撲道」を体現した貴乃花VSモンゴルからの「出稼ぎ」組で「勝たなければ一銭にもならない」と豪語する白鵬と、「金の亡者」といわんばかりの発言を繰り返している。銅谷志朗あたりも似たようなものだ。(ついでに一言すると、貴乃花はかねてからモンゴル人力士たちに反感を持っていた、というようなことを力説されると、貴乃花がまるで根っからの国粋主義者であるように思われてきてしまう。)
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 場所中にモンゴル人力士が不適切なことをすると観衆から「モンゴルに帰れ!」という罵声が浴びせられることがあるという。やはり根底には「強すぎる」モンゴル人力士たちに対する鬱積した感情があるのではないだろうか? しまいには冬巡業の2日目だったか、朝稽古を終えてシャワーを浴びた後、控え室に戻ろうとした白鵬が背中にMONGOLIAN TEAMというプリントの入ったジャージを着ていたことまでが非難の対象になっている。やれ「モンゴル(力士の勢力)を誇示している」だとか、「宣戦布告」などと言い出す始末で、よくもまあ些末なことをおおげさに、とあきれるばかりだ。だが、本気で「力の誇示」だと考えているなら、それはそう考えた人間たちがモンゴル人力士たちを「脅威」に感じていることの裏返しの証明でしかないだろう。
 ガチンコ相撲などというが、全力でぶつかり合う相撲は命がけである。稀勢の里の負った怪我の大きさだけでもそれは知れる。なまじの鍛錬で土俵にあがれるものではない。素質に恵まれた者は他の道にすすんでも大成することだろう。それでも大相撲の道にすすもうという若者が日本にはいなくなってしまった(少なくなってしまった)ということではないのだろうか?
 「土俵には金が埋まっている」というのは先代の若乃花の言葉だという。「出稼ぎ組」などと揶揄した人間には「それで何が悪い」といいたいし、懸賞金制度などをどう考えるのか聞いてみたいものだ。そして、白鵬が本当に「出稼ぎ」に来ているだけで、大相撲の伝統などどうでもよいと考えているかどうかは、次世代の力士を育てるために彼自身が創設した白鵬杯をみるだけでもよい。最近、若手として台頭してきた阿武笑は白鵬杯の第1回の優勝力士だという。
 確かにモンゴル勢は大相撲の一大勢力になった。だが、それは今や大相撲はモンゴル人力士たちによって支えられているということではないのか? それがいやだというとき、モンゴル人力士たちを排除してしまおうということでいいのか? アメリカやヨーロッパ、南米出身の力士たちもいる中で、モンゴル人だけをシャットアウトできるのか? 本場所にしろ、巡業にしろ、彼らなしにやっていけるのか?
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 貴乃花については今いうことはない。我が道を行くというならそれもいいだろう。だが、「貴乃花VS白鵬」という作られた構図については、入門時から注目を集め、他の弟子たちと同様に扱われたといいながら、いわばエリートの道を歩んできた人物と、遠い異国から大相撲への憧れと成功への野心だけを頼りに這い上がってきたモンゴル人力士たちを引き比べて「品格」を云々することのみっともなさを知るべきだといいたい。
 先のジャージは昨年モンゴルで開催された世界相撲大会で作成されたもので、白鵬にもプレゼントされたものだそうだ。もしこの時期に白鵬が何らかの意図を持って着用したとしたら、祖国モンゴルの相撲ファンに対するささやかなサービスだろうと私なら考えるし、ときとして日本で孤立する自分たちのアイデンティティの確認の気持ちがあったかも知れないと考えないでもない。白鵬の背中に「増長」をみるのか、「孤独」をみるのか? そのどちらにせよ、そこへと追い込んだ者たちの責任という問題についても考えてみたい。

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by yassall | 2017-12-07 02:01 | 雑感 | Comments(0)
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