…「戯曲の棲む家」第四弾には、客席の用意がない。(チラシより) 完成より実験を先行させたのだな、と思った。22日、ゲッコーパレード本拠地公演「戯曲の棲む家」vol.4を観て、そう思った。 vol.2の「戸惑いの午后の惨事」と同じく、開場時にはまだ舞台も客席も設定されていない。ただ、vol.2では役者たちはあらかじめ会場にいて、開幕と同時に「そこにいた人」が「役者」に成り代わっていくという仕掛けだった。また、客席はキッチン側と事前にアナウンスもあり、椅子も置かれていた。 今回は開演予定の13:00になってから、キャスト・スタッフがさも慌てたそぶりで玄関ドアからいっせいに駆け込んでくるなり、「これから仕込みを始めます。それまでどうぞごゆっくり」などと客に呼びかけている。実際、照明・音響などの機材をコンテナから取り出すところから作業を始めている。 あまつさえ、「座長は?」「何だか30分くらい遅れるそうです」などというやりとりが声高な会話の中から聞こえてくる。ああ、これはわざと客を混乱させて劇空間の中に引きずり込もうという作戦だな、と察しがつきながら、「客席の用意がない」=客の(安全な)居場所がない、「じゃあ、この間に稽古してて」=開演の目処がつかない、という状況の中で、困惑や怒りの感情が起こって来る。きっと、その感情を観察したり、楽しんだりさせようということなのだろう。 「声だし」や「稽古」とみえたものが、実ははじまりだった。「完成より実験を先行させた」と書いたが、「飢餓陣営」は少なくともそう言っていいだろう。チラシには「彼らが人形と共に連れてきた物語」とあるが、人形劇という形態でそれはどうみても途中から始まり、途中で終わってしまった。「実験」というのは、この芝居にとりくむ中で、自分たちはものを食べるとはどういうことかについてディスカッションした、そこで各自がさまざまなテーマで調査活動をした、そのレポートをする、という展開になっていったことを指す。そのディスカッションの結果がどのような結論を導き出したか、というようなことは全く明らかにはされない。この時点では客は家の中のあちこちに散らばっており、レポートもあちこちで同時進行しているのだから、統一した何かを届けようとすることなどハナから放棄しているのである。 さて、そうこうしているうちに仕込みが完了したのか、一室の片側に用意された客席に誘われる。もう一方の片側には人形劇の舞台が設置されている。開演がアナウンスされ、いったん暗転ののち、「道成寺」がはじまる。人形劇と書いたが、額縁の外には役者もいて、人形たちとやりとりしながら芝居は進行していく。ただし、人形を操りながら科白を出していく声優たちの表情も客席からみえるわけだから、彼・彼女らも演技者として客の前に現れていることには変わりがない。 「飢餓陣営」とは違って「道成寺」の方は完結した芝居として見せてくれた。今回は大道具もなかなか工夫を凝らしていて、客を飽きさせることなく、芝居の世界に引き込んでくれたのではないだろうか。 「飢餓」から「食べる」というテーマに発展させようとしたとか、民家の一室で芝居を打つにあたって人形劇を持ち込んでみるとか、今ある条件の中で、その制約を逆手にとって、何が出来るかという実験精神を感じた。その次ぎに何をめざしていくのか、それが楽しみである。
by yassall
| 2016-10-22 22:10
| 日誌
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Comments(1)
Commented
by
torikera
at 2016-11-06 00:19
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面白い公演でしたね
観客も芝居の一部になっていくのでしょうか 私は昨日卒業生の出演する舞台を八幡山へ観に行きました 演劇素人の私ですが 卒業生に付き合ううちに 様々な演劇世界があるものだなぁと感心しています(笑)
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