「鳥居歌集 キリンの子」を読みながら、詩とは何かについて考えた。それは、詩において「言葉」が先か、「心」が先か、という問題である。まだまだ雑感の段階であるが、少しく文章にしてみたい。 目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ この一首は「キリン」という言葉との出会いから始まっているのではないか? それは、「墓参り供えるものがないからとあなたが好きな黄色を着て行く」にある「黄色」が連想させたのかも知れない。そこから「キリンの子」という修飾・被修飾が導き出されることで、母の子という母子関係と自己認識が生まれる。 虐げる人が居る家ならいっそ草原へ行こうキリンの背に乗り 鳥居には別に上のような歌もある。鳥居にとって「キリン」はもともと開かれた「草原」へと自分を解放してくれるイメージとしてあったのかも知れない。地上からはるかに離脱した位置に頭をおき、「草原」にあって孤高を保てる存在として。したがって、先に述べたような「和解」もつかのまに訪れた一瞬の感情であったのかも知れない。それでも、そう歌ったとき、鳥居は一歩本来の自分に近づいたはずだと思うのである。次のような一首と出合うと本当にそう思う。 お月さま少し食べたという母と三日月の夜の坂みちのぼる 最初の問題にもどろう。「言葉」に捕らわれることで詩(歌)が生まれるのか、「心」がその現れ出る出口を求めて「言葉」を捕らえるのか? オレンジの皮に塗られた農薬のような言葉をひとつ飲みこむ 上にあげた一首の「農薬のような言葉」とはどのような言葉であるのか? 自分に向けられた悪罵であるのか、あるいは一見は耳に心地よい偽善の言葉であるのか? いずれにしても、深く自分を傷つける予感に満ちた言葉であるに違いない。「飲み込む」とあるのは、表出されないという意味だろう。深く心に抱え込んだ言葉に苦しみながら、これを異物として拒否し、排除していく。 心とはどこにあるかも知らぬまま名前をもらう「心的外傷」 最後に定型という問題について考えてみる。これも「言葉」と「心」の関係に似た問題がひそんでいるように思うのである。
by yassall
| 2016-05-13 16:58
| 詩・詩人
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Comments(2)
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たにむら
at 2017-02-08 17:51
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はじめまして。私の好きな歌は
気づくのは 降りやんだあと雨傘の 水滴を切り空を見上げる です。 辛い状況(雨)から身を守るように傘をさしていたが、 それもいつの間にか止んでいた。 止んでから気づき、身を守ってくれた傘を一振り、過去を振り払い 青空を見上げる、と前向きな歌ととらえています
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yassall at 2017-02-09 14:46
コメントありがとうございました。歌の力が、自分をとらえ直し、自らの人生を歩み出させる、ということでしょうか? しかも、自分一人ではなく他の人々にも力を与えていく、ということに気づかされるような一首でした。
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