東大附属中等教育学校演劇部顧問のKさんから、「なんと、なんと、三年連続、都大会出場が決まりました!」という報告をいただいたのは8月下旬のことであった。 その折、これも3年連続ということになるのだが、10月上旬の文化祭公演のお誘いをいただき、natsuさん、tomoさん、そして今年はコピスに初出場してくれたNさんも交えて観劇に出かける算段になっていた。ところが、よんどころない事情で私だけ参加できなかった。 その後、様子だけでも知りたいと、natsuさん、tomoさんのブログを閲覧すると、今年も生徒創作で「舞台の作りや芝居の印象がかなり変わっているのが楽しかった」などと書かれている。そんなことを書かれたら、余計に惜しい気持ちがつのっているうちに、そうか!都大会に出場するというのだから、都大会を観にいけばいいのだ!ということに気がついた。 さっそくKさんにメールをすると、ことのほか喜んでくれて、ではチケットを用意しましょうと返信してくれた。都大会の会場は池袋の芸術劇場。地下のシアターウエストとシアターイーストの二つの小ホールを借り切って2日間で12校ずつ、計24校が上演する。小ホールといってもけっこうキャパはあるのだが(何度かここを会場にした芝居を観たことがある)、この2日間は完全チケット制になるのだそうである。 チケットは通し券(たぶん一般・高校生向け)と入れ替え席券(たぶん上演校の父母・関係者向け)とがあり、私のために確保してくれたのは入れ替え席券である。開演20分前に受付で名のるとチケットを渡してくれる。私の席は前から3列目のほぼ真ん中付近。まさしく特等席だった。 さて、題名は「就寝刑」。沖田ネムルという眠り続けなければならない刑に処された男の「謎」をめぐって芝居が転んでいく。他に、朝野メザメ、飯尾ヤスミ、丑満シンヤ、根津テツヤ、小森ウタと名づけられた5人の囚人と女性刑務官初野ユメ、その上司にあたる昼間という主任、そして白服の黒子(?)であるマチビトたちが出演者である。 こんなことを考えながら、わくわくする思いで出かけていった。そして感想は?ということになるのだが、この際だから社交辞令的なことは書かない。せっかく観客の想像力に訴えかけようとしているのだから、こちらも玄関先のあいさつで済ませるわけにはいかない。 まず、「就寝」の対極として「覚醒」を置いてみる。すると、この芝居では①沖田の目覚め、②5人の囚人たちの自らの使命に対する目覚め、③女性刑務官初野の自己の置かれた立場への目覚め、の3つの「覚醒」が描かれていることに気付く。 ここで誤解がないように断っておけば、朝野メザメが演技的に芝居を引っ張っていたことは確かなことで、表情豊かに、natsuさんいうところの「自然な間合い」で観客の笑いもとっていた。天性ともいえそうなその明るさと、少々おせっかいともいえるキャラクターの設定によって、人物同士の関係性を構築したり、沖田への関心を呼び起こしていることも見落としているわけではない。だが、切り口としてのきっかけを作りながら、それが深められていかないもどかしさがある。つまり、演技的にだけではく、ストーリー上でも芝居を転がせたか、ということなのだ。そのネーミングからして、ネムルの対抗軸として設定されているはずなのに、その役割を十分に果たせていないようなのだ。 もう一人のキーパーソンである初野ユメに「覚醒」のきっかけを与えているのも朝野メザメである。ここのところがもっと鮮明になっていれば、芝居はもっと骨太になっていったのでないかと惜しまれる。というのも、房の中にいる朝野メザメより、刑務官である初野ユメの方が情報面でも行動面でもはるかに沖田の「謎解き」のチャンスに恵まれているからである。朝野メザメと初野ユメとの相互関係がもっと深められていれば、ずいぶんと芝居の奥行きが深まっただろうと思われる。 さきほど芝居の方向性というようなことを書いた。「謎解き」の答として用意されたのは「正義」である。沖田は刑務所内での囚人に対する虐待を告発したことから受刑者となる(ここのところはもう少し込み入った過程があったかも知れない)。 では、それとは違った方向性があり得たのだろうか? 最後にそれを書いてみよう。 少し突飛すぎた。あまり無責任なことをいってはいけない。ただ、最終的に自己を解放していく力になるのは想像力であり、その想像力を自分から檻に閉じ込めてはならないということをいいたかったのである。もっともっと想像力の翼を広げ、深めていって欲しい、小さくまとまらないで欲しいと思ったのである。 ※なんだかとりとめがなくなってしまいました。少々干からびかけた想像力を刺激してくれた東大附属演劇部の皆さんに感謝です。 [補足]2015.11.17 書き終わって何日か経っても、自分だったらどうするかと、あれこれ想像がふくらんでどうしようもない。 「眠り続ける男」を入口としてどこへ向かうかだが、まず「眠る男」が何を表象しているかを考えなくてはならないだろう。弥勒か、キリストか、などと書いたが、やはり救済であり、希望であるような気がする。もちろん、そのまま弥勒菩薩やイエスを持ち出すわけにはいかないだろうが、皆がその目覚めを待ち焦がれるような存在でありたい。 すると、朝野メザメがネムルの対抗軸と書いたが、朝野メザメがきっかけにはなって欲しいと思うが、むしろ囚人たち全員の願いであり、「なあ、起きて、俺たちに教えてくれよ」とか「道しるべになってくれよ」と呼びかけられる対象となる方がいいと今は思う。 そんな沖田ネムルが、ある日突然、一度皆の前から姿を消してしまうという展開はそのままでいいと思う。そこから囚人たちが変革をとげていくというのも正解だろう。 主任の昼間には沖田ネムルと対立するものとして、もっと確固とした位置づけを与えた方がいい。沖田が希望や自由や夢であったら、体制や秩序や現実といったふうに。 入口と出口が見つかったら、今度は逆算していけばいい。罪人である囚人たちの犯した犯罪が何かなどはそこから考えればいい。具体的な犯罪というより、虚言とか、欺瞞とか、吝嗇とか、抽象的な罪状でもいいのではないのか? 仏教やキリスト教の定める戒律が参考になるだろう。 ほんとうは具体的な科白のようなものが頭の中に浮かんでくるのだが、酒を吞んでいるときとか、寝入りばなにひらめいたりするのですぐに消えていってしまう。以上のことも、そのままにしておけばやがては消えていってしまうと思うので、今のうちに書きとめておくことにする。
by yassall
| 2015-11-08 19:20
| 高校演劇
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Comments(2)
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by
natsu
at 2015-11-09 20:25
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さすが!yassallさん。見事な分析に目を開かされ、ワクワクしながら読ませてもらいました。わたしが漠然と感じていた感覚的な不満を、鮮やかな言葉(論理)にしてくださったと思います。
回収されていない。まさにその通りだと思いました。「眠り続ける男」が「覚醒」するという舞台上の事実に、きちんとした「物語」が組み立て切れていない、ということになるのですね。 それにしても、yassallさんにこれだけ正面切った感想を書かせてしまうのだから、それだけ凄い生徒創作台本だったということは言えると思いました。
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yassall at 2015-11-09 23:44
アップしたあと、書きすぎたかな?(それでいて書ききれなかったかな?)と思っていたところなので、コメントありがたいです。これだけのしかけを作ったのだから、安易なところで日常に帰らず、正義にしろ、罪悪にしろ、もっともっと深めて欲しかったと考えたのです。
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