さいわい発熱はなかったのだが、咳が止まらないようならかえって迷惑をかけることになってしまうと、夜中にも目が覚めてはうがい薬でうがいをしたり、ドリンク剤を飲んだり、ともかく早期回復につとめた。 それでも良くならないのなら、「行けなくなった」というしかないのだが、毎年の恒例になっていること以上に、「行きたい」と考えたのには二つ理由があった。 一つは久しぶりの卒業生が「行きます」といっていること、二つ目は3月の試演会で朝霞高校の芝居を見て、ぜひその仕上がりを見たいと思ったからである。 今年の朝霞高校の演目は高泉敦子「ライフレッスン」である。何度か他校での上演を見ているが、試演会での舞台を見ていて、これまでで一番科白が素直に心に届いてくる気がしたのである。 ちょうど岡田尊志『父という病』を読んだあとだったせいもあるかも知れないが、「父と子の物語」という補助線を引いてみると、この芝居の世界がするすると解けていくように思えたのだ。 もちろん、その父と息子の配役が芝居にマッチングしていたのが最大の理由だろう。父親役の方はここ2、3回の芝居を見て力をつけてきたのは承知していたが、息子役の方のピュアで力みのとれた演技にも一目惚れしてしまったのである。 ところで、本番がどうだっかたというと、残念だったというしかない。その主たる理由は二つ。一つは照明プランのミス、もう一つは舞台装置のクオリティである。 ねらいというのか、アイデアというのか、なぜそのようなプランになり、大道具が作られたのかを理解できないわけではない。 父と息子がからむ現実の場面と、どこからか子ども達が登場して空想世界が展開していく場面とを照明で切り分けたかったのだろう。また、平台に開けた穴からの光を強調させたいというようなこともあったかも知れない。だが、青の地明かりだけではあまりにも暗すぎる。役者の顔が見えないことは、観客にとっては最大のストレスなのだ。もし、部屋の灯りを落としているという設定だとしても、我慢の限度は1分というところだろう。 もしチャンネル数が足りず、地明かり以外にライトを吊すことができなかったとしても、地明かりサスを中央と脇に切り分けたり、パーセントを変えるだけでも雰囲気にアクセントをつけることはできるし、先のようなねらいはある程度満たせたはずだ。 ラストシーンで後方から来る光を表現したかったのだろうが、パネルについても、上辺がそろっていなかったり、素材感の違いが解消されていなかったり、白布が翻ったままになったあとに、木材が地のままで見えてしまったりと、未完成さが明らかで世界が作れていない。 おそらくは生徒から出されたアイデアを尊重し、照明計画の立案の段階でも、ヒアリングに臨む段階でもチェックされなかったということではないのだろうか? それなら私にも覚えのないことではない。しかし、これだけの芝居を照明ひとつで台無しにしてしまうこともあるのだから、ここは顧問が気がついてやらなければならなかったのではないか? せめて前日のリハの段階で誰かが気がついたなら、シーリングからでも、地明かりサスからでも、前明かりを加えることは可能だっただろうに、と思うと残念でならない。 (芝居の方は、父親と息子だけでなく、息子のガールフレンドの少女のメリハリが利いた演技にも好感が持てたし、その他の役者もよく脇を固めていたと思う。だから、なおさらなのだ。) 私の想像が当たっているとして、顧問の責任、あるいは部員と顧問の関係のあり方、といったことを考えてしまう。 生徒がやりたいことを読みとった上で、どうしたらそれが舞台の上でかたちになるか、ねらった効果が発揮できるかをアドバイスしてやるのも、そしてときには生徒の思い込みの誤りを正してやるのも顧問の仕事だと思うのである。 よくいわれることだが、「こういうつもりで演技していた」の「つもり」が、そのまま客席に伝わることの方がまれなのだから。だとすれば、幕を上げる前に「直し」を入れてやれるのは、一番最初に客観的に(客の立場で)芝居を見てやれる顧問しかいないのだから。 というわけで、今回は他の学校のことまで論評する余裕もないし、立ち位置を確保することもできないのだが、久しぶりに細田学園も参加することになり、朝の9:30から夕闇迫る18:30まで、それぞれの学校の個性を発揮しながら溌剌と演技が出来ていたことだけ書き添えておこう。
by yassall
| 2015-04-26 23:39
| 高校演劇
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Comments(2)
土曜日はありがとうございました。
打ち上げではyassallさんの感想を聞けなかったので観劇記を楽しみにしていたのですが(・ω・) ぜひ、コピスの時に前後編通しの感想を聞かせてください。
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Commented
by
yassall at 2015-04-28 17:37
つい興奮気味になってしまいました。特定の人を貶めるつもりはなく、激励の気持ちを書いたつもりなのですが、受け取りようによっては傷つけることになったかも知れません。芝居がよかっただけに、我を忘れたか?
柳瀬の芝居についていうと、洗練度が増したなあ、というのが第一感想。イギリスの階層社会という一面が見えた気がしましたが、全容はまだつかめていないというところです。アーネストのさわやかさが印象的でした。
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