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2014年埼玉県高校演劇中央発表会

 11月15・16日、第63回埼玉県高等学校演劇中央発表会が彩の国芸術劇場(写真)で開催された。
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 今年は1日目が卒業生の結婚式と重なってしまい、見にいくことができなかった(結婚式そのものはたいへん良い式であった)。また、家庭の事情から2日目も朝一番からは見に行けず、かろうじてラスト3校を残すところで駆けつけることができた。
 現役時代以上に精勤(?)するようになったのには三つ理由がある。一つ目は、地区大会の審査員を引き受けるようになり、自分が選んだ学校が県大会でどう評価されるか、応援も含めて見届ける必要があるように思ったこと。二つ目は古巣である西部A地区から選ばれた学校があればその応援、西部Aを破って選ばれた学校があったらどんな学校のどんな芝居であったのか、その確認。そして三つ目は気心の知れた人々との、いまや恒例となった大会終了後の懇親会である。
 とはいえ、私の役割は県大会への選出までであり、県大会でどのような芝居を上演するか、観客や審査員がどのように評価するかは私の手の離れたところでの問題である。いい意味でも悪い意味でも、地区大会と県大会とで芝居が変わってしまうことは往々にしてあることだし、むしろ地区大会で気づいた弱点を補うために手を入れ直して臨む学校の方が正統だろう。県大会では私はひとりの観客として高校演劇を楽しめばいいのだし、大会がはねたあとの懇親会にしたって、あれこれの論評はあるものの、みな芝居好きなのだなあ、ということが確認できればそれでいいのである。
 さて、今年の審査結果は次の通りであった。

 最優秀賞   亀尾佳宏・作「お葬式」  春日部女子高校
 優秀賞1席  コイケユタカ・作「D-パラダイム」  秩父農工科学高校
 優秀賞2席  亀尾佳宏作・作「ぽっくりさん」  所沢高校

 創作脚本賞  阿部哲也「いてふノ精蟲」  川越高校
 

 県大会に対するスタンスは先に述べたとおりだし、県大会の審査員を務められた方々の観点は尊重されなければならないのだから、結果について云々はしない。しかしながら、今年は少々釈然としないものが残ったのも確かなことだ。

 春日部女子高校についていえば、西部A地区を破って県大会に出場した学校が最優秀賞を射止めたわけだから、まずは本望と思うところである。
 だが、芸術劇場の大ホールに合わせて作り替えたという赤い大鳥居には最後まで違和感が残った(これだけの大鳥居を構えた神社がこうした子ども達の遊び場になるだろうか?)し、これもホールの大きさに負けまいとしてのことだろうが、会話の距離感なども広く空けすぎだと感じた。
 女の子の衣装が黒かったのは、いかにも祖父の葬式を抜けだしてきたことが分かり、正しい選択だと思った。だが、女の子が抜けだして来たのは「知らない人が大勢集まって」「みな嘘泣きしている」のにいたたまれなかったからではないだろうか? 幼いために人の死を理解できないでいる、というのではなく、大好きだった祖父の死を受け入れられないでいるからではないだろうか?
 その女の子が仲良し達とのお葬式ごっこを通じて、生きることの厳しさ、生命のはかなさといとおしさ、そして残された者たちが死んで行った者たちを弔うことの意味に気づいたとき、女の子は初めて祖父の死を受容するのである。
 観客にも応援されながら、のびのびと、さわやかに演じきった生徒たちに対する賞賛を惜しむわけではない。だが、そのせつなさの表現というところで、私は不十分さがあると思った。

 秩父農工科学高校が埼玉の高校演劇をリードする存在であることは誰しもが認めるところだろう。コイケユタカさんはその伝統を引き継ぐ覚悟を固めて秩父に居を移したのだと思う。これはたいへんな決意だったろうと感じ入ってしまう。
 秩父に移ってから、コイケユタカさんの書く芝居は変わったと思うし、また前任の若林先生の芝居とも明らかに異なっている。コイケユタカとしてグレードアップしようとしているのだろうと思うし、また新しいコイケユタカカラーを出そうとしているのだろうとも思う。それはとても大切なことだ、と思うのである。
 だが、それが十分に実を結んでいるかといえば、私にはまだまだ途上であるように思えるし、今回もそれを感じた(※)。
 情報を遮断された環境の中、不安から逃れるためのようにして、力で成員たちを服従させたリーダーが唱える「明るい未来!」を信じ込もうとしている、いわば自ら判断停止状態になった成員たちを待ち受けるのは破滅でしかない。…
 その危機を、殺処分されようとする犬たちと、その日その日を「ノリ」だけで生きることしか考えていない高校生たちとオーバーラップさせながら描こうとする。…
 審査員の方は「アクチュアリティの出し過ぎ」というようなことをおっしゃっていたが、私はそうした時代に対する敏感さや批判精神というものも演劇が担うべき大切な要素であると考えている。むしろ、私が不十分だと感じたのは、その追究が中途半端に終わってしまっていることだ。
 犬たちが積み込まれた荷台の中で起こるリーダーの地位の争奪の過程で、不安を訴え、力による支配に抵抗を試みた一匹、トラックが交通事故を起こした時、いち早く脱出を試みた一匹、それらの扱いや処理にもうひと工夫あれば、時代に風穴をあけるカウンターテーゼになり得たり、そうでなくとも重大な警告になり得たと思うのだが、十分には展開されずじまいであったり、別な方向へ流れていってしまったように感じた。反面、審査員の方は褒めていらしたが、吊りもののオブジェなどは意味不明で、さまざまなものを提示しながら、整理しきれていないものも感じた。
 (※「劇的」であることが先行して、せっかくのモチーフがきちんと追及されていかない、といったらいいのだろうか? 人をハッとさせるものを提示させながら、けっきょく「劇的」であるための手段としてつまみあげられただけなのね、と思わせてしまう。11/21の補足)
 ※コイケユタカさんの秩農芝居では、私は2年前の「青春リアル」がテーマも鮮明で構成的にも優れた作品であると思った。イジメの陰湿さや公開自殺という設定に疑問を投げかけた人も多かったし、私も見ていて辛さを感じたことは確かである。だが、生きていることにリアルさを失った現代青年が苦悩する姿、さまざまなあがきやハレーション、出口のなさに正面から向き合ったと思ったし、IT世界の描き方や、作詞作曲までこなしてしまうマルチな才能がいかんなく発揮されたと思った。

 肝心の両校の関係者がアクセスしてくれるかどうかも不明な中で、書きたい放題のことを書いてしまった。失礼なことがあったらおわびしたい。聞く耳を持っていていただければ幸いである。
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 もう一言いうと、既成台本にとりくむことの難しさである。創作台本と既成台本を同等に扱ってくれ、といわれるが、どうしても創作台本の方が新鮮味にまさってしまう。
 そこへいくと評価の定まった既成台本は、作品としての完成度は一定水準にあるものの、オリジナルにはどうしても敵わないところがあるし、よく上演できた過去の他の学校とも比較されてしまう。よほどの新しい切り口がないと、なかなか上へのぼっていくことは難しい。
 その意味で3本中の2本を、既成台本を選んだ学校から入賞させたことは、審査員の見識であるのかとも考えた。高校演劇が生んだ財産として引き継いでいくべき作品があることも確かなのである。
 創作脚本賞に関しては、今年は奨励賞は該当作なしということであった。そうしたなかで、阿部哲也さんの「いてふノ精蟲」が本賞を射止めたことは快挙だった。脚本分野での受賞ということだったが、演技も地区大会のときよりも数段レベルアップしていた。緞帳が降り始めるとととも客席から拍手が起こったが、その拍手の大きさがなによりも芝居の成果を物語っていた。
 筑波大坂戸高校の「赤と黄色とアルパカちゃん(仮)」は1日目で見られなかったのだが、批判精神としてのアクチュアリティという意味では十分に理解されなかったようなのは残念だった。入間向陽高校の「恋待駅」はぜひ見たと思っていたが、これも1日目なので見逃してしまった。
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 今年も与野本町駅前のミニバラ園には各種のバラが花開いていました。(赤色は色飽和を起こしがちなのだが、割とととのって写すことができた。)

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by yassall | 2014-11-17 13:51 | 高校演劇 | Trackback | Comments(2)
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Commented by natsu at 2014-11-17 20:32 x
自分の感想をアップした後でこちらを見たら、さすがYassallさん、いろいろと配慮された大人の感想で、何の配慮もない自分の感想が恥ずかしくなりました。でも、一度載せてしまったら取り消せないし、まあ仕方ないですね。また、機会を見つけて飲みましょう。
Commented by yassall at 2014-11-17 23:11
natsuさんの方こそ、批判すべきところは切れ味するどく、評価すべきところは深く温かい目が行き届いていて、表面しかなぞっていない私の方が恥ずかしくなります。またよろしくお願いします。
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