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パイプ党時代

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 7月に銀座を歩いていて菊水の前を通りかかった。1903年創業という喫煙具の老舗中の老舗である。そういえば私にもパイプ党時代があったことを思いだし、戸棚の奥から昔のコレクションを引っ張り出してみた。
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 コレクションといっても、私がパイプ党を気取っていたのは20代のころのことだから、たいしたものはない。それでも一時は熱中したこともあり、煙草を止めたあとも捨てずにとっておいたのだ。
 喫煙具一般にもいえるが、パイプは趣味性が高く、素材や形状(シェイプ)によって様々な種類がある。
 素材では、メシャム(海泡石)パイプやシャーロック・ホームズで知られたキャラバッシュパイプなどは高級品にあたる。キャラバッシュはひょうたんの一種で形状が独特でおもしろい。
 マッカーサーが厚木に降り立った時にくわえていたのがコーンパイプ。トウモロコシの芯が難燃であることからパイプに使われたが、素材からして高価なものではない。陶器で作られたパイプをクレイパイプという。きれいな絵付けがされたものがあり、コレクションとしてはおもしろいが煙草を吸う道具としてはあまり適していない。
 さて、どうしても前段が長くなってしまうが、一般的に好まれているのはブライヤーパイプである。ブライヤーはバラの根であるといわれたりするが、本当はツツジ科のホワイトヒースの根である。地中海沿岸の乾燥地帯に自生している。
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 好まれている理由としては、軽く、壊れにくいということがあるが、何といっても木目の美しさがある。このパイプでは、ボウルの部分にバーズアイと呼ばれる木目が出ている。
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 ステム(煙道)の部分にはストレートグレインと呼ばれる木目が出ている。メーカーはサビネリというイタリアのブランドであるが、商品入れ替えのためだったか、格安で手に入った。
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 こちらはイギリスのコモイというメーカーのもの。素材は同じブライヤーなのだが、熱した細かい砂を吹き付け、柔らかい部分を落としてしまうサンドブラストという製法で作られている。木目は消えてしまうわけだが、軽量になるうえ、表面積が大きくなる分、放熱性がますことから喫煙具としての性能は高い。つぎのパイプとともに、もっとも愛用した一本である。
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 こちらはイギリスのスリービーというメーカーのもの。上記2本がストレート型であるのに対し、ベント型という曲線を描いたシェイプをもっている。
 1本目がブルドッグ、2本目がカナディアンというように、ストレート型には定番名のあるものが多いが、ベント型には固有名はない(補足こう書いたのはまちがいで後から出てくるズルの他チムニーやローデシアンベントなどの定番名をもつものがあることを後に知った。それらはクラッシックシェイプと呼ばれているとのことだ)。その代わり、創作的なデザイン性をもつもが多い。
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 木目でもっとも価値が高いのはストレートグレインということになっている。その意味では、このパイプの木目は変則的であるが私はけっこう気に入っていた。
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 パイプで高級品といえばダンヒルが名高い。金額でいうと一桁は違ってくる。ダンヒルの刻印は小さな○がひとつというシンプルさである。それがブランドというものなのだろう。だが、このスリービーの刻印も私は好きだった。
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 携帯用にステムとマウスピースが短くなっているタイプ。デザインも個性的だ。
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 木目もけっこうきれい。だが、煙道が短いということは煙の熱が十分に冷え切らないうちに口に入ってくるということで、クールスモーキングには適さない。携帯用とありながら、あまり持ち歩かなかった。
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 デンマーク製の製品はデザイン性の高いものが多い。銘にはヘンリーとあるが、あまり有名なメーカーではない。
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 ベント型だがズルという型名がある。先に補足したクラッシックシェイプのひとつということになる。銘が確認できなかったが、確かフランス製(たぶんシャコム)だったと記憶に残っている。
 パイプを何本も欲しくなるのはコレクションという欲求もあるが、吸った後はどうしても湿気を帯びてしまい、連続して同じパイプを使用すると煙草が不味くなってしまう。そこで、ほどよく湿気をとばすまでレストしておく必要があるからだ。
 逆にいうと、そこがブライヤーパイプの利点でもある。先ほど、クレイパイプが喫煙具としては劣ると書いた理由もそこにある。
 ロンドンのダンヒルの店には365(+1)本のパイプをおさめたパイプカレンダーがあると写真でみたことがある。まあ、これは遊びごころのなせるわざだろう。
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 パイプには小物の楽しみもある。こんなものにも、上からタンパー、ピック、ナイフ、まとめてコンパニオンという名前がある。
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 おもしろそうな小物があるとつい買ってしまう。
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 しまいには自分でも作ってみた。捨てるばかりになっていた数字スタンプ材を彫刻刀で彫ってみたのだ。
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 モアイ像風の顔を彫ってみる。火であぶって仕上げをしようとすると、材がやわらかいので途中で折れてしまったりした。
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 最後にアップするのはスタンウェルというデンマーク製のパイプである。パイプはマシーンメイドとハンドメイドがあるとされるが、素材の性質からしてマシーンメイドといっても工業製品のような量産がされるのではないだろうし、ハンドメイドといっても木工旋盤も使わないということでもないのだろう。定番の型に木を削っていくのか、素材の個性を活かしてデザインから考えていくのかの違いではないかと解釈している。
 スタンウェルはマシーンメイドのメーカーだが、デンマーク製らしくハンドメイドに近いデザイン性が特徴だ。
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 自分としては一点物というつもりで購入に踏み切ったのだが、こうしてみると木目はあまり大したことはない。手入れもしてこなかったが…。
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 実は新しいパイプで吸う煙草は美味くない。どうしても木の焦げる臭いがするものなのである。喫煙を重ねるうちに、ボウルの内側にカーボン・ケーキと呼ばれる層がたまってくる。そうなってはじめてブレイク・インということになる。
 私がこのパイプを買ったころはそろそろパイプ党卒業のころだったということになるのだろうか。ブレイク・インするまで使い込むおっくうさもあって、使い始めの時期を選んでいるうちに未使用のままになった。

 パイプで喫煙を楽しむまでには相当の手間暇がかかる。私はとうてい熟達というにはいたらなかった。パイプを吹かすというが、確かに香りを楽しむもので、喫煙としてはもの足りなさが残る。おかしな話だが、1時間もパイプを吹かしたあと、「ああ、疲れた!」といってシガレットに手を出すこともままあった。
 香料の強いものが多く、人の集まる場所でははばかられることが多かった。レストランなどではもってのほかだった。
 そんな、こんなで、いつしかパイプから遠ざかっていくことになったが、ときおりパイプ党時代が懐かしくなったりもするのである。
 菊水は久しぶりだったが、紀伊國屋ビルの1階に専門店(Kagaya)があり、パイプをやめてからも新宿に出た時は待ち合わせまでの時間によく立ち寄ったりした。池袋パルコにも専門店があったり、東武デパートの喫煙具コーナーもけっこう充実していたが、どうやら撤退してしまったらしい。

 最後に一言。パイプは紙巻き煙草より健康への害が少ないといわれたりする。確かに肺の中一杯に煙を吸い込むことはないのだが、パイプ党だった澁澤龍彦は咽頭ガンで亡くなっている。舌ガンを患う人も多い。万が一にも、この投稿を読んでパイプを始めてみようなどと考えた人がいたときのために、予め一言しておく。けっして勧めはしない。


by yassall | 2014-08-12 15:36 | 雑感 | Comments(4)
Commented by natsu at 2014-08-12 20:12 x
パイプ党だったなんて知りませんでした(聞いたことありましたっけ?)。
趣味人yassallさんの面目躍如といった感じですね。
Commented by yassall at 2014-08-13 00:39
コメントありがとうございます。趣味人なんていわれると気恥ずかしいですね。ただ、凝り性なのは確かでしょう。澁澤龍彦の病名が間違っていたので訂正しました。
Commented by torikera at 2014-08-13 00:57 x
道具にはこだわる楽しさがあるんですよね これはこだわったモン勝ち あははっ 木目もきれいで楽しいですねぇ 私は煙たいのが嫌いなのでまるで駄目ですが(笑)
Commented by yassall at 2014-08-13 13:41
ブツ撮りは久しぶり。ライティングが難しいですね。2灯当てにして影はなるべく出ないようにしても、反射してしまうのはどうしようもない。専用の機材やスタジオがあるわけではないから仕方ないですね。
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