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はぴどり「ひとひら」公演

 3日、はっぴぃはっぴぃどりーみんぐプロデュース「ひとひら」公演をみてきた。今は葉山美侑、みかわや出演である。
 今回はvolナンバーがつけられていない。はぴどりはスピーディな殺陣を持ち前にしてるが、今回は派手なアクションは控えた学園ドラマである。特別企画ということなのだろうか?
 公演がはねたあと、感想はブログにアップするよ、と約束して別れてきたのだが、どう書いていいのか悩んでしまったのである。
 はぴどりに初めて出るようになったのが1年前。そのときは、確かセリフは一言だけという端役だった。今回は同じ校内で対立する演劇部と演劇研究会の一方の部長という、かなり重要な役どころを与えられている。はぴどりとの縁は本人も大切にしているようだし、今回のキャスティングにも喜んでいる様子でいるのは明らかで、いつも以上に気合いが入っているのは確かだろう。
 だが、どうも出来栄えには感心しない。もともと応援のために見に行っているのに、そのことを書くと逆に足を引っ張ることになってしまいそうなのである。しかも、それは多くは台本や演出にかかわることがらなのである。
 原作は桐原いづみのコミック。漫画だからいけない、などとはもちろん言わない。テレビアニメにもなり、続編も描かれているというから、それなりの評価もされているようだ。キャラクターの設定やストーリーの構成もしっかり作られているのだろう。
 だが、漫画の表現をそのまま演劇に持ち込んでしまうことには疑問が残った。漫画はコマで表現され、コマとコマの空間は読者の想像にゆだねていく。連載漫画であれば、ある出来事や人物についての描写は、数週間あるいは数ヶ月飛ぶこともある。だが、演劇の場合は人物は生身の身体をもって(コマの外に出てしまうことなく)現前し、またせいぜい2時間の連続した時間の中で、「全にして一」なる統一体として表現される。
 それでも、主人公・麻井麦を中心とした、ストーリー上でも核心部分となるところは、キャスティングもよくはまり、芝居は作れていた。主人公にのみ感情移入していけば、「演劇を通して違う自分になる」「やり通せば苦労したこともよい思い出になる」など、その心の変化にも一定の説得力がある。
 では、演劇としてのふくらみがそれで十分かといえば、そうではないと思うのだ。今回、みかわやが演じていた演劇部の部長榊、そしてその演劇部から飛び出して演劇研究会を立ち上げた一ノ瀬との二人の葛藤が、主人公の行動や心理にも重大な影響を与える、芝居のもうひとつの構成要素になっている。
 しかしながら、その人物設定には相当の無理があるとしかいいようがない。突発性の声帯麻痺という奇病に襲われ、スタッフに回ることを勧められた一ノ瀬が、キャストから外れることを拒んで演劇部を飛び出してしまうことから榊との対立が始まるのだが、客観的にいってただのわがままである。
 キャストへの執着という以上の演劇への熱意というようなものが描き込まれていないと、その榊に共鳴してついていった演劇研究会のメンバーが存在することにも、何より主人公の自己変革にエネルギーを与えていくことにも、説得力が生まれない。
 榊は最初は仇役として登場する。それはいいのだけれど、一方の一ノ瀬がそんなふうだから対立項としての立ち位置が見えて来ない。かなり激しく衝突する場面もあるのだが、実は一ノ瀬を演劇の世界に誘ったのは榊であり、その責任を重く感じていたり、一ノ瀬の身体をかばっていることが次第に明らかになる。そこで二人の対立の構図は、演劇部対演劇研究会のバトルから、お互いに相手を思いやる気持ちのすれ違いに変わっていく。
 だが、どうしてそのような設定になっているのか不明だが、一ノ瀬が表情を作れない(?)ということになっているので、対立の中でお互いが変化していく様子が読み取れない。みかわやは熱演しているのだが、怒ったり、嘆いたりしてみせているのが、みな空回りしてしまう態なのである。
 一ノ瀬役の工藤真由ははぴどりの常連で、頭の回転もよく、人を惹きつける魅力を持った女優である。原作の人気にもあやかった上演であるとすれば、勝手に登場人物の設定を変えたりすることは出来なかったのかも知れないが、もし人間対人間の葛藤のドラマとして描くのなら、もう少し脚色を加えても良かったのではないかと思われた。そうすれば、みかわやとのぶつかり合いにも深まりがあったのではないかと考えると残念である。
 特別企画では? と冒頭に書いたが、いつものエンタメに徹していこうというのであれば、このような書き方はしない。しかし、今回の劇はシリアスドラマである。だが、その追究のしかたはまだまだ中途半端だったような気がする。なまじのアクションなどを取り入れるより、しっかりした人物設定を組み立てていかないと、心には届いてこない。
 今回は文芸路線もあるんだ、ということろを見せてくれたのだと思う。次作を期待したい。

 感想の方は少々きつめになってしまったが、興行的には成功しているようで、その努力には賞賛を送りたい。平日の公演であったが、座席は満席、追加でパイプ椅子を何脚も出さざるを得ない様子であった。土日のチケットは完売、記念に作成されたオリジナルTシャツもあっという間に売り切れてしまったという。

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 写真は会場のウエストエンドスタジオ(中野区・新井薬師前駅10分)。卒業生が出演する芝居を見に行くようになって、このような小規模の小屋が予想以上に、いたるところにあることを知った。若い人々が夢を追って、また夢を求めて集まって来られる場所があるのは楽しい。環境的には厳しいところも多いが、照明・音響設備が整っているだけでもありがたいことなのだろう。


by yassall | 2014-07-05 16:25 | 日誌 | Comments(2)
Commented by torikera at 2014-07-20 00:04 x
私も卒業生の演劇の追っかけをやっています(笑)
正直観た劇の半分はう~んと唸っちゃうことが多くて感想を求められると困ることも(^▽^;)
やはり脚本や演出、主演の俳優の問題であったりすのですけれど・・・・
確かにこれほどあちこちに小劇場があり演劇に情熱をささげている人たちが大勢いることにビックリしてしまいました
Commented by yassall at 2014-07-20 18:38
今回も「原作もの」と呼ばれる、やはりエンタメ系だったのかも知れません。観客が何を求め、どう応えるか、というのは難しい問題です。
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