震災文学と震災後文学とは明らかに異なる。8.15後の文学が戦後文学であるように、3.11後の文学を震災後文学と呼ぶことには当為性がある。一冊の書物の題名であることを越えて、どこまで一般化するかは不明だが、著者によらなくともいつか誰かによって命名されなくてはならなかった。 著者は、「問題は、地震でも津波でもない原発事故と放射能汚染にあるのだ」といい、川上弘美「神様2011」がその見通しを最初に示したという。 だが、原発事故と放射能汚染はそれらとは明らかに異質だ。なぜなら、それは二重の意味で「一過的」であり得ない。放射能汚染は数十年、数百年にわたって持続する。「元通り」に住民たちがそこに居住できるようになることを目指せない、というより目指してはならないのである。 著者の専門は日本古典文学であり、日本文学に関する国際的な研究者の交流の場から、著者の問題意識というより危機感が生まれたようだ。 だが、「当事者」であるかどうかを倫理問題としてとらえ、かつ収斂させようとすることは正しいといえるだろうか。それが「尻馬」に乗ろうとしただけなのか、「安易なヒューマニズム」で終わってしまっているかどうかは、作品そのものの価値によるのではないのだろうか。 本書の指摘によってハッとさせられたことがあった。私たちはよく、「唯一の被爆国日本」といういいかたをする。しかし、ヒロシマ・ナガサキ・ビキニにフクシマが加わったとき、すでにヒバクシャと呼ばれる人びとは世界中に存在していることに気づかなくてはならないのである。それはウラン採掘場、核兵器の実験場とされた地域、原発事故を引き起こした地域に居住している、あるいは何らかの作業のために立ち入った人たちであり、さらには劣化ウラン弾が投下された国の人たちも含まなければならないであろう。 そして、新しい何かが始まるはずだ、社会のあり方、人びとの生き方、産業も、教育も、そして文学も変革されていかなければならないし、そうなるはずだと確信した人は少数ではなかったのではないだろうか。 「津島祐子『ヤマネコ・ドーム』、辺見庸『青い花』を読んだときに、ここで一度区切りをつけて日本文学を研究する者として「震災後文学論」をまとめておかなければならないと感じたのである。」 筆者は、「最も本質的なところで腑におちるかたちでわからせてくれるような深いことば。決して裏切ることのないことば。最も信頼できることば。それが文学のことばなのだ。」とし、「まだまだ読むべき小説がたくさんある。そう考えるだけで世界はまだ信頼に足るものだと思えるのである。」ということばで本書を結んでいる。
by yassall
| 2014-04-13 18:21
| 本
|
Comments(0)
|
最新の記事
カテゴリ
タグ
演劇(106)
花(93) 美術館(77) 高校演劇(76) 旅行(60) 読書(40) カメラ談義(28) 学校図書館(26) 日韓問題(26) 国語国文覚え書き(17) 日本浪曼派(17) 庭園(15) 朝鮮戦争(10) COVID-19(8) 映画(8) 酒・食物(7) 脱原発(6) 太陽光発電(5) 懐かしの怪奇スター(5) 九条(4) 記事ランキング
最新のコメント
お気に入りブログ
ぶらぶらデジカメ写真 b... Black Face S... * thank you * 釜石写真館(旧 盛岡写真館) 鳥居 18→81 c-en Soul Eyes 久米谷dayory 大きな楡のテーブルⅢ 新緑もみじBE53 外部リンク
以前の記事
2024年 12月 2023年 05月 2023年 03月 2022年 12月 2022年 08月 2022年 06月 2022年 04月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2011年 12月 2011年 03月 ブログジャンル
検索
|
ファン申請 |
||