10月末に出版された大江健三郎の『晩年様式集』を読み始めているのだがなかなか進まない。大江健三郎の本を手にするのが久しぶりなのに、どうやらこれまで発表された作品を前提として書かれているらしいことと、本人が「前口上として」で述べている通り、「いくつものスタイルの間を動いてのもの」であることが読みにくさに輪をかけているのだろう。 「よっておぬしには了解できよう、未来の扉がとざされるやいなや、わしらの知識は、ことごとく死物となりはててしまうふことが。」(寿岳文章訳) そのように指摘されてみれば、それは多くの人々が3.11後に直面した精神状況だったのではないだろうか。あたかも3.11の年に退職を迎え、第二の人生を歩み始めることになった私も同様だった。「今日」は「昨日」の延長ではない、「昨日」と同じように「明日」を迎えることは出来ない、と。 辺見庸を読んだとき、私は少し光がみえたと思えた。その光に大きな影を落としたのが昨年末に誕生した第二次安倍内閣である。 だが、3.11を切り離すことは、一度「何かから切れてしまった」私たちを放棄することに他ならない。どのように浮かれ、騒ぎ立てようと、どこかそらぞらしさ、「昨日」にも「明日」にもつながらない、浮遊する自分が発見されてしまうのではないだろうか。 [国語・国文]でいうと、太宰治の「十二月八日」についてはどうしても書いておきたいと思っている。太平洋戦争の開戦に日本の作家たちがどう向きあったかを検証することは今日的な意義を失ってはいないと思う。太宰の「十二月八日」はいわれるような軍国主義への屈服、ましてや便乗ではないというのが私の読み方だ。 と、多少大上段にかまえつつ宣言してしまうことで、自分への叱咤激励とする。日本をとりまく状況はますます深刻になっていくことは間違いないだろうから、相変わらずブツブツと何ごとかつぶやきながらになってしまうかも知れないが、私は私なりに「いま現在の、そこの状態」と向きあっていきたい。 明日になれば「年明け」である。とやかくいいながらも「年越し」が出来る幸運を喜び、「年明け」によって新しい出発への期待を抱くというこの国の風習には素直にしたがいたい。だが、「年越し」があっての「年明け」であるのだから、それが過去と切れてしまうわけでもないし、置き去りにしてしまってよいわけでもないことは忘れないようにしたい。
by yassall
| 2013-12-31 13:59
| 雑感
|
Comments(0)
|
最新の記事
カテゴリ
タグ
演劇(106)
花(93) 美術館(77) 高校演劇(76) 旅行(60) 読書(40) カメラ談義(28) 学校図書館(26) 日韓問題(26) 国語国文覚え書き(17) 日本浪曼派(17) 庭園(15) 朝鮮戦争(10) COVID-19(8) 映画(8) 酒・食物(7) 脱原発(6) 太陽光発電(5) 懐かしの怪奇スター(5) 九条(4) 記事ランキング
最新のコメント
お気に入りブログ
ぶらぶらデジカメ写真 b... Black Face S... * thank you * 釜石写真館(旧 盛岡写真館) 鳥居 18→81 c-en Soul Eyes 久米谷dayory 大きな楡のテーブルⅢ 新緑もみじBE53 外部リンク
以前の記事
2024年 12月 2023年 05月 2023年 03月 2022年 12月 2022年 08月 2022年 06月 2022年 04月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2011年 12月 2011年 03月 ブログジャンル
検索
|
ファン申請 |
||