ポール・デルヴォー展へ行って来た。デルヴォーの絵は2001年の「ベルギーの巨匠5人展」以来だ。今回の企画は習作時代といってもよい初期のころからの作品を系統的に追ったもの。そこで気がついたことがある。 たとえばデルヴォーとマグリットを比較してみる。するとマグリットの方が造形的に整合的であり、描線が明快で、デルヴォーの方は人体そのもののバランス、あるいは室内であれば部屋の大きさとのバランスに狂いがある。もちろんそれは絵の優劣とは別問題で、マグリットの方はだまし絵的な《偽》リアリティ(迫真性)があるのに対し、デルヴォーの方はそのバランスの狂いゆえに、夢の世界にでも紛れ込んでしまったような幻想性に勝っている。 つまり、印象派でいうならゴッホに感じるような、歪(いびつ)さと美との融合がデルヴォーの魅力なのだと考えてきたが、初期の作品をみてその認識が一変した。 デルヴォーは絵画に先立って建築を学んだということだが、初期の作品群をみると、それらが確かなデッサン力に支えられており、ときには建築製図のような緻密さによっていることが知れるのである。かといって、計算された冷たさはなく、ロマンチックな詩情が伝わってくる。 デルヴォーについて書き始めたので日ごろ考えていることをもうひとつ。古代ギリシャの哲学者パルメニデスによると、「あるものはある」と「ないものはない」を厳密に峻別するならば、「ある」ものは「ない」ものではないのだから、「無から有が生まれる」はずはなく、さらには「ある」ものが変化したり、分割されたりすることもないことになる。 「あるものはある」「ないものはない」という(単純ゆえに動かしがたい)同一律から西洋的思惟が始まったとすれば、その形而上学的な存在論を突き崩すのは確かに容易なことではない。 デルヴォーはキリコからも多大な影響を受けたということであるが、共通点があるとすれば、煙を吐いている蒸気機関車が描かれても、手をさしのべようとしている人物が描かれても、少しも動き出そうとはせず、未来永劫そのままに、永遠に静止しているかのようであることだろう。 東洋的な「無常」や「生々流転」とはまったくの別世界が表現されているのである。 ※ 「シュールレアリスムの詩は私を引きよせ、その理論は私を遠ざける。」(デルヴォー) …絵画を構成的に描こうとすればシュールレアリスムのいう自動記述はもともと不可能なのだ。無意識世界の存在を認めたとしても、それを観察し、表現しようとする意識の働きなしには芸術はあり得ない。 会場は埼玉県立近代美術館(北浦和公園内)。期間は3月24日まで。 埼玉県立近代美術館には澁澤龍彦展以来。けっして大きな美術館ではないが、ときどき面白い企画がある。地方美術館もけっこうがんばっている。郷土色といってしまえばそれまでだが、澁澤龍彦展などは斬新だった。今回は常設展でモネの「つみ藁」や日和埼尊夫の木口木版を見たりもした。下は屋外展示場の重村三雄「階段」。
by yassall
| 2013-02-26 18:40
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