月の可愛(かい)しゃ十日三日
美童(みやらべ)かいしゃ十七つ ホーイ チョーガ 知念榮喜については沖縄県生まれ、明治大学(中退)で萩原朔太郎に出会い、詩作を始めた、49歳の年に詩集『みやらび』でH氏賞を獲得した、という以上には詳しくないのである。ただ、H氏賞を受賞した1970年に私は大学に入学し、さっそく入部した文芸部の先輩が持っていた詩集をみせてもらったことを今に記憶している。 最初に心惹かれたのはその装丁だった。“みやらび”とは“美童”と書き、若い女性やピュアな心を持った子どものことをいうのだそうだ。装丁に使われた絵は知念榮喜の息子が描いたものだと聞いたような気がするが、今となっては確かめようがない。(※奥付を確かめると、装丁知念太郎、とある。) 詩集は500部限定で印刷された。私が入手したのはずいぶん後になってからだったと思うが、34番のナンバリングがある。渋谷の中村書店で見つけた。 原崎孝は「生命の始原や自然の古代への思慕と現代の惨酷」とのせめぎあい、「純粋なるもの正義なるものへの志向」と評している(『日本近代文学大事典』講談社)。 知念榮喜が東京新聞に寄稿したエッセイの切り抜きを一枚だけ保存していた。その一部を詩集『みやらび』の巻頭詩とともに書き写してみる。 「優しいたましひは埋葬できない」 みやらびよ 相思樹のいし だたみに未来をきざむな 濱木綿の七つの香りをはこび 夜明 けの泉にはぢらひの緑の髪をかざすな 星のかがやかない盲ひ たははには死線がみえる みやらびよ 終りの月を炎の歌でつ つみ 木麻黄の楯にきよらかないけにへの裸型を示すな 棘の 指がまさぐる夢の塔はとどろく海のなみだにひらされる みや らびよ 漂ふ羊の空にひとりめざめ 乾いた骨の岩棚をさすら ひ 奪はれたかぎろひの日々を喚びもどすな 阿檀の森の雨に 濡れ 海鳥の岬によろばふおどろのははは 優しいたましひを 埋葬できない みやらびよ 私はいつまでも島の夢を織りつづけるだろう。砂漠の都会をさまよう者にとって、悪魔祓いに似ている。私が生まれたところは、今も淋しく美しいところである。島の北の果てであり、戦禍をまぬかれているからだ。 私は木蔭の長老たちのように、そこで終生を果たすことができないであろう。島の根を求め、夏の夢を織りつづけるのである。 私は忘れることがない。夜の海には夜光虫が瞬いていた。今、私の上には、島から送られてきた、とりどりの貝が散らばっている。貝は耳にあてると海鳴りの音がする。 八月十五日は島の祈りの日である。私は月明かりに貝を耳にあてるのだ。海の音を聴くのである。 (「海の音を聴く 沖縄の八月十五日」1977.8.12) (ちねんえいき,1920-2005)
by yassall
| 2013-02-03 15:51
| 詩・詩人
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