23日、natsuさんに誘われて朝霞西高校・新座柳瀬高校演劇部のクリスマス公演のはしごをしてきた。遅ればせながら感想のようなものを書いてみたい。
というのは、両校の公演をみて、いわゆる「高校演劇らしさ」とは何だろうか、ということを改めて考えてみたのである。 「私はどうも、等身大のふりをして高校生の問題をわざと深刻に描くような芝居が嫌いなみたいだ。」 というような科白をボソッと主人公に語らせたのは平田オリザの『幕が上がる』である。 高校生が高校生を演じるというのは、実はそうたやすいことではないと思っている。高校生がそこにいるから高校生の芝居になるのではなく、舞台の上ではあくまで高校生を演じる「役者」がいるのでなければならないのだからである。 それでも、毎年のコンクールを見ていると高校生を主人公にした芝居が選ばれてくる確率が高いように思われるし、これまでにも内容的にすぐれた作品が数多く生まれ、蓄積されていることもまた確かなのである。 さて、この日の演目は朝霞西が中谷まゆみ作「今度は愛妻家」、新座柳瀬が倉持裕作「鎌塚氏、放り投げる」。どちらも高校生にとって「等身大」とはとうてい言えない芝居である。では、両公演は高校演劇「らしく」なかったかといえば、決してそんなことはないと思ったのである。 朝霞西の「今度は愛妻家」では、幕開けから「排卵日」「子作り旅行」「童貞」「イッた、イカない」などということばがポンポン飛び出してくる。観客が見えていないことを前提とした、夫婦間のみでの会話という設定であっての科白だが、男子にしろ女子にしろ、高校生が口にするのは心理的なハードルを越える必要があっただろうなあという思いと、舞台の上では「役」を演ずる者であることを支えに、あえて平然と口にする自分を現出させてみたかった、というようなこともあるかも知れないなあという思いがあった。たぶん、その両方が本当であると思う。 「これからが人生本番だ!」というのが、かつて卒業生を送り出すときに添えてきたことばである。ということは、高校生はまだ人生の本番を迎えていないことになるが、その予行演習とでもいうのか、人間の人生がどのようなものであるかを垣間見ていることは確かである。まだ本当の人生は知らない。だが、やがて迎える人生に対するおののきのようなものが表現されていたら、そこにはやはりリアルがあると考えてよいのではないかと思うのである。 さて、ドラマの方はクライマックスが近づくにつれ一気に急展開し、その過程でいくつも伏線が張られていたのに少しも気付けなかったことに悔しさを覚えるほど、組み立ての優れた台本だと思った。こういうドラマと向き合うことで、きっとこの生徒たちの人生は豊かになっていくに違いないと思った。 カメラマン北見俊介を演じたのはKANKAN男でKAN2の役についた生徒ではなかったか? 男役が続いたが、もう貫禄すら感じさせる演技ぶりで他の俳優たちを引っ張った。妻さくら役の生徒も滑舌よく舞台を回していった。 還暦のおかま原文太(と呼ぶより、文ちゃん!と言った方がすでになじみ深い)は抜きんでていたと思う。一度は家庭を持ちながら、性同一性障害に悩み抜き、ついに妻子を捨てるに至った男(?)の悲しみのようなものが表現されていた。おかまを演じると、それだけで劇的な存在であったりするので、面白がっているわりに役に振り回されているだけ、というふうになってしまいがちなのだが、己の業を見つめる人間として、しっかりと演じられていた。熱演のあまり汗でメイクのアイシャドーが頬に流れてしまったのだが、それがまるで涙のように見えてしまったのだった。1年生の二人も最初のうちこそ線が弱かったが、クライマックスにつれてよく感情が乗って演技が出来ていた。 新座柳瀬の「鎌塚氏、放り投げる」は伯爵家に仕える執事を主人公に、上流社会に生きる人間たちの虚栄やかけひきを描くという、さらに通常の高校生の日常とはかけ離れた世界が舞台になっている。 陰謀あり、不倫あり、窃盗という犯罪あり、あわや殺人まで起こりそうなストーリー展開であるが、柳瀬得意のすれ違い、取り違え、そしてアップテンポの芝居運びとコミカルな味付けで、観客の爆笑をさそう。 主人公である羽鳥家執事長鎌塚アカシを演じるのは「星の王子様」でも「アーネスト」でも主役をつとめてきたKさんである。今回、朝コミでは最近の定席である一番後ろの席からではなく、初めて間近にその演技に接することになった。 一言でいえば「超高校生級」である。目線はあくまで力強く、きめ細かな表情の変化は感情表現として自然で、緩急自在な演技ぶりには破綻というものが一切見られない。そして、Kさんの偉いところは、これ見よがしに自分だけ達者ならいいというのではなく、明らかに他の役者を引っ張り、引き立てているところだ。 最終的にはバランスの調整が必要だとして、稽古中は「回りに合わせて平均的になるな!まずは自分が飛び出そうと思え!それが他の役者を刺激することになる!」などとハッパをかけて来たものだが、巧まずしてそこが出来ているいると思った。 そのKさんももう3年生。このまま彼女の芝居を見られなくなるのは惜しい!とすら思うほどなのだが、先ほどの平田オリザの『幕が上がる』では吉岡先生に次のようにも語らせているのである。 「いや、やっぱり楽しいんだけど、楽しすぎて人生変えちゃうかもしれないし、そんなの責任持てないしね。」 そして、プロの世界に進んだとして、今と同じような輝きを放てるとは限らない。ずっと男役でやってきたが、プロの世界に男役の女優という需要はまずないという現実的な問題もあるが、そればかりではない。 「超高校生級」とは書いたが、頂点に近づくというのもまた高校生の可能的な姿であると思うのである。例として適切かどうかは分からないが、スポーツの世界では高校生にしてすでに世界レベルという種目はいくらでもある。俳優の場合は年齢を経てはじめて生まれる渋みのようなものがあるのは否めないが、だからといって高校生レベル=未熟という評価に押しとどめるのは間違いであると思うのである。 高校演劇として「等身大」をめざすのではなく、演劇という芸術において頂点を極めようと鍛錬を絶やさないこともまた「高校生らしさ」に他ならないと思う。そんなとき、高校生は輝いて見えるのである。 いやあ、ちょっと惚れ込みすぎだなあ。natsuさんに誘われなければきっと各校の自主公演まで顔を出すことはなかっただろうし、これからもあり得ないだろう。この高校演劇愛はnatsuさんの影響だし、そしてこれからもその強さにおいて追いつくことはないと思うのである。
by yassall
| 2015-12-28 01:52
| 高校演劇
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Comments(2)
先日はご来場くださいましてありがとうございました。
普段から色々と考えていますが、高校演劇が「高校生が演じる演劇」という以上に演目や役柄に制限のあるジャンルとしての「高校演劇」なのだろうという気が年数を経るにつれて強くなっています。しかし、yassallさんやnatsuさんに励まされながら、なんとか頑張っています。 次は3月の卒業式前日・当日の卒業公演です。Kは最後まで男役だと思いますが、ご案内いたしますので、よろしければ是非。
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by
yassall at 2015-12-28 14:43
いろいろあって感想が遅くなってしまいました。確かに制限もありますが、高校演劇ならではの魅力もあると感じています。それはいわゆる「高校生らしさ」とは違うものだとも思っています。
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